徒然日記 - 焼酎はなぜ夏の季語となったのか (上)

焼酎はなぜ夏の季語となったのか (上)

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プライベート » フードアナリスト
執筆 : 
Dice 2020-6-28 18:00
テゲツー!夏焼酎の記事を校正する必要があって、俳句の世界では「焼酎」が夏の季語とされているのは何故かが気になったので、調べてみることにしました。

とりあえずGoogleで「焼酎 夏の季語」をキーワードに検索かけると、

「江戸時代の百科事典『和漢三才図会』によると「気味はなはだ辛烈にして、疲れを消し、積聚を抑へて、よく湿を防ぐ」と書かれています。要するに夏の暑さに疲れた身体に活を入れ、精力をよみがえらせる酒と位置づけられていたのでしょう。」

みたいな記述があちこちに見られます。

検索結果に似たような記述が多くて多様性が無いのは、冷や汁の鎌倉時代起源説と似ていて、何か怪しい予感がしたので、原典の『和漢三才図会』を確認してみることにしました。

『和漢三才図会』は、国立国会図書館のデジタルコレクションに中金堂1888年版が収録されていて、上之巻、中之巻、下之巻、総目録の4巻に分かれています。
そこで、いろは順に並んだ総目録をめくって「焼酎」の項目がどこにあるかを探したところ、下之巻の1786頁にあることがわかったので、下之巻に移動して当該頁を探し出しました。



上記の画像(クリックすると別ウィンドウで大きな画像が表示されます)がその焼酎の頁ですが、当該部分は最後の方にあって、
「気味甚辛烈而消痞抑積聚能防濕」(返り点省略)
と記されています。

『角川大字源』や『広辞苑 第5版』などで個々の漢字の意味を調べてみると
「痞」は「つかえ」で、疲れではなくて、「腹中に塊のようなものがあって痛む病気。胸や心のふさがること。」という意味、
「積聚」は「しゃくじゅ」で「さしこみ。癇癪。」、
「濕」は「湿」の異体字で「しつ、とう、しゅう」などと読み「しめる。うるおう。うれえる。気を落とす。」などといった意味があります。

これらから察するに、
「焼酎は胸のつかえを消し、癇癪を押さえ、じめじめとした陰鬱な気分を防ぐ」
と解すべきで、気分を晴れやかにするものではあるけれど、「疲れを取る」とは読めないのではないかと考えます。

また、同じ焼酎の項の前の方に、
「北人四時飲之 南人止暑月飲之」(返り点省略)
と書かれていますが、これは、
「北人は四時(しじ)之を飲み、南人は止(ただ)暑月に之を飲む」
と読み、
「北の方の人は一年中これ(焼酎)を飲んでいるが、南の方の人は暑い季節だけこれを飲む」
と解せます。
日本では、焼酎は専ら九州以南の飲み物なので、何か変だなと思って更に調べていたら、中国の明時代の文献『本草綱目』(1593年上梓)の「焼酒」の綱目に同様に
「北人四時飲之 南人止暑月飲之」
という記述があることがわかりました。

中国で焼酒とも呼ばれる白酒などの蒸留酒は、主に東北部で愛飲されているので、中国のことと考えれば整合が取れます。



念のため、『本草綱目』第25巻の原本を国立国会図書館のデジタルコレクションで確認してみましたが、どうも、『和漢三才図会』の焼酎の項目は、『本草綱目』のそれを殆どそのまま引き写しているようです。

ということで、焼酎が夏の季語であることの理由付けに『和漢三才図会』を持って来るのは、少し無理があるようです。

誰かが間違った解釈で書いた物がインターネットに乗り、以降、特に検証もされずに引用、孫引きを繰り返されているようです。
皆様、ご注意あれ。

この話、長くなるので2回に分けます。
(下)へ続く。
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