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徒然日記 - 読書カテゴリのエントリ

『街を変える小さな店』

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2014-5-31 23:21
 すごく久しぶりのブログ更新だ。
 このところ、プライベートな活動でご紹介したい部分については、「宮崎てげてげ通信」の方に書いている。
 ちょっとこことはテイストが違うけど、ライター陣の一部として記事を提供することによって、少しでも宮崎を楽しみたい、宮崎に行きたいと思ってもらえる人が増えることを願っているので、よろしければお読みください。Facebookページもあります。


 さて、このブログの先週末に浦安の家族宅に帰った際、飛行機の中で読了したのが、堀部篤史著『街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。』(京阪神エルマガ社)

 著者は、京都市の北東、左京区の一乗寺という街にある書店・恵文社一乗寺店の店長。
 「恵文社」は、京都市内に3店舗を持つ書店だが、それぞれ個性のある店づくりをしているといい、著者の勤める120坪ほどの一乗寺店では、新刊はもちろん、古書や洋書、自費出版物も扱うし、レンタルギャラリーと生活雑貨を扱うフロアも併設という、普通の書店のイメージとはちょっと違う、「セレクト書店」のような店らしい。

 蔦屋書店のような大手書店による大型店の出店とAmazonに代表されるオンライン書店の台頭、電子書籍の出現などにより、中小規模の書店が街から急速に消えていく中で、著者が勤めるような街の本屋が生き残る道はどこにあるのか、そういう視点で著者は同じ街に生きる小さな店を巡る。
 居酒屋、古書店、中古レコード店、喫茶店、そして同業の書店、どれも一癖も二癖もありそうな店ばかりだ。
 それは、カルチェ・ラタンとも称される左京区だからこそ成り立っているとも言えるし、そうした店主の個性の集積が左京区という街を作っているとも言えるのではなからろうか。

 巻末の著者と山下氏(ガケ書房店主)との対談の一番最後にある著者の
「僕は自分の店だけを頑張るって感じを超えて、つながりながら輪を大きくしたい。
(中略)
点を線に、さらに面に見せつつ、シンプルじゃない物語をつくることが、街の本屋の生き残りの突破口だと思っています。」
という言葉は、本屋だけではなく街づくりそのものにも繋がると思うし、それは図書館のあり方を考えることにも繋がっていくと思う。

 それから蛇足だけど、本書は造本が面白く、全ページが黒と朱の2色刷で、見出しとページ、ポイントとなる引用文などが朱色で刷られている。
 写真も2色刷なので、全体に赤っぽくなっていて、ちょっと見づらいんだけど、独特の雰囲気を演出しているのは間違いない。
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『テロリストの回廊』

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読書
執筆 : 
Dice 2014-1-25 22:25
 今回の読書録は、トム・クランシー&ピーター・テレップ著『テロリストの回廊(上)』『同(下)』 (新潮文庫)

 手に取った時に、上巻の帯に「クランシー逝く!」と書かれていて、初めてトム・クランシーの死を知った。wikipediaで調べてみたら、2013年10月1日にボルチモアの病院で亡くなっていた。まだ66歳、死ぬにはまだ早い。

 トム・クランシーと言えば、1985年にデビュー作『レッドオクトーバーを追え』が邦訳されて以来30年、ほとんどの作品を買って読んできた。『レッドオクトーバーを追え』の衝撃は大きかったし、それに続く一連の「ジャック・ライアン」シリーズのクオリティの高さは素晴らしかった。
 彼が、(軍事や諜報活動を扱う)テクノスリラーとか軍事シミュレーション小説というジャンルを切り開いたようなものだ。その功績は実に大きい。
 ただ、次第に共和党的な愛国主義、ウィルソン的国際干渉主義の色が作品の中に濃く出るようになってきて、それが鼻につく部分もあった。

 しかし、自身は軍隊経験が全く無いにも関わらず、綿密な取材や調査に基づき、現実の国際情勢やアメリカの国内情勢を巧みに取り入れたプロットで綴られる物語のリーダビリティは、やはり抜きん出るものがあった。

 後年、共著という形を取ることが多くなり、クランシーの独自性は薄れた気はするが、共著者の得意分野が加わることでディテイルに深みが出たであろうことは疑いがなく、その名が冠された作品は、間違いなく面白く、買って損のないものだったと思う。

 そんな巨匠が亡くなって、作品が読めなくなるのは実に残念だ。まだ未訳・未読のものもあるのでもう少しだけは楽しめるが、まだまだ書けたであろう66歳の死は、惜しいという言葉に尽きる。心からご冥福をお祈りしたい。


 ところで本書のことだが、アメリカが戦いを続けている2つの強大な敵、南米の麻薬カルテルと中東のテロ組織タリバンが手を組んだら…という恐るべき仮定を前提に展開される。この秀逸なプロットが、クランシーの真骨頂だ。

 アメリカとメキシコの国境に麻薬カルテルが掘る輸送用のトンネルを使って、タリバンのテロリスト達がアメリカ国内に侵入しテロを決行する計画が進行する一方で、麻薬カルテルを撲滅させようとする統合タスク・フォース(JTF)の困難な戦いが展開される。

 CIA、FBI、ATF、DEAといった組織から選ばれたエリート隊員達で構成されるJTFの中心が、元SEAL隊員でCIAの秘密活動に従事して中東で活動していたマクスウェル・ムーア。
 SEAL時代の作戦中に同僚を失ったトラウマを抱えており、今回の作戦でも仲間を次々と失うという困難な状況の中で数々の思い出がフラッシュバックする
 そのトラウマを乗り越え、超人的な活躍の末に一方の敵を倒していくのだが…。

 昨年末、アメリカ・ワシントン州でマリファナの合法化に関する住民投票の結果、可決されたとの報道があった。州の規制と連邦の規制は別物なので、住民投票で可決されたからといってそのまま合法化につながる訳ではないらしいが、その裏にはマリファナのようなライトドラックを合法化することによって末端価格を下げ、麻薬ビジネスで莫大な利益を上げている麻薬カルテルに打撃を与えようという狙いもあるらしく、それほどにアメリカの苦悩は深いようだ。
 また、アフガニスタンはアヘンの原料となる罌粟(けし)の生産が盛んであり、世界の9割が近くがここで生産され、タリバンの潤沢な資金源として利用されているという。
 アメリカの戦いは、麻薬を通して2つの敵につながっている。本書を読むまでは、そのようなリンクがあることに気付かなかったが、それを気付かせてくれたクランシーに感謝!。
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『ポーカー・レッスン』

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読書
執筆 : 
Dice 2013-12-8 21:53
 通勤電車に乗らなくなったら、とたん読書量が落ちたので、久しぶりの読書記録だ。
 今回は、浦安往復の機内で読んだ、ジェフリー・ディーヴァー著『ポーカー・レッスン』(文春文庫)『クリスマス・プレゼント』に続く、ディーヴァーの短編集である。
 ちなみに、本作の原題は"More Twisted"、『クリスマス・プレゼント』は"Twisted"。ディーヴァーの真骨頂は、どんでん返しで読者の意表をついて楽しませてくれることなのだが、短編でもひねりの利いたどんでん返しの連続で、その名手ぶりは変わらない。

 本作には16の短編が収められていて、おなじみリンカーン・ライムが主人公の「ロカールの原理」も含まれている。70ページ余りの短編ながら、パートナーのアメリア、介護士のトム、刑事のロン・セリトーなどいつものメンバーも登場し、しっかりとライム・シリーズの雰囲気を持たせつつ、ひねりの効いた落としどころを見せてくれる。流石という他はない。
 ディーヴァーは、勢いで書くのではなく、緻密な計算に基づいてプロットを作り、ディテールを描き込む作業をしているのだろうな。だから、ディテールを削ぎ落としていっても、きちんとその世界が成立するのだと思う。

 残りの15編も、いずれ劣らぬ名品ばかりで、数十ページの間に騙される快感を味わさせてくれるし、短編なのでさくさく読み進められるしで、旅のお供とするにふさわしい作品集である。
 買って読んでも決して損しないと思う。☆☆☆☆1/2。
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『ナイト・ストーム』

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2013-8-4 17:01
 宮崎に戻って電車に乗らなくなったせいで、確実に読書量が減っている。通勤時間が短くなって、外回りの営業に出なくても住むようになったのが、果たして良いのか悪いのか。
 そのため、このブログの更新頻度も著しく低下してしまっている。ブログに書く内容を変えないといけないかな。コンセプトからは少々離れてしまうが、料理日記の方が良いのかも。

 それはさておき、今回ご紹介するのは、サラ・パレツキー著『ナイト・ストーム』〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
 前作『ウィンター・ビート』から約1年ぶりにV・I・ウォショースキーに再開できた、同シリーズ15作目である。

 今回も事件の発端は、ヴィクの従妹ペトラからの1本の電話。夏の嵐の夜中に夜間外出禁止令を破って出かけた、ペトラが読書クラブで指導している少女グループのメンバーを探して欲しいというものだった。
 閉鎖された墓地の一角で、ヴァンパイアと出会うための儀式を行っていた少女達を発見し保護したヴィクだったが、その同じ場所で、同業者の男ヴフニクの他殺死体を発見したことで、いつものようにヴィクの冒険劇が幕を開ける。

 少女グループの中に、上院議員候補の娘と、その候補の支援者である大富豪の孫娘が含まれていたことから、ヴィクは上院議員選挙の候補者同士の対立軸に巻き込まれていく。

 平行してヴィクは、大学時代からの友人で州立の精神病院に入院していたレイドンから秘密めいた電話を貰い、指定されたチャペルに会いに行くのだが、レイドンは何者かにバルコニーから投げ落とされ、意識不明の重体となってしまう。

 ヴフニクの死の真相を追いつつ、レイドンが襲われた背景を調べるヴィクは、やがて生涯最大の危機を迎えることになる。

 本作の重要な柱の一つは、権力とメディアとの関係。ケーブルテレビなどのメディアが、権力者の意のままに操られる可能性のある現状とその問題点を、本作は指摘している。
 そして、もう一つの重要な柱が姉弟(兄妹)関係。様々な姉弟(兄妹)の関係が作中に登場し、その関係性を読み解くことが事件解決の手がかりともなっていく。

 本作でも、ヴィクの友人である常連の登場人物達がしっかりと脇を固め、600ページを超える物語を一気に読ませる著者の筆力は相変わらずの冴えを見せる。
 「われわれはみな無意識のうちに、発達障害の人間は何をするかわからないと思いこんでいるんだな。人はみな、偏見に凝り固まっている」
という作中の台詞のひとつに代表されるように、著者の弱者に対する温かい視線は一貫して変わらない。

 エピローグは少しほろ苦いが、それが今のアメリカの現実であることを、著者は美化せずに描いているに違いない。

 なお、原題の"BREAKDOWN"は、「故障」「没落」「挫折」「衰弱」「分析」「明細」など様々な意味を持つが、読後に振り返ってみると、邦題の「ナイト・ストーム」よりも全体の意味をよく表している気がする。
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『ソウル・コレクター』

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読書
執筆 : 
Dice 2013-3-10 12:24
 今回ご紹介するのは、ジェフリー・ディーヴァー著『ソウル・コレクター 上』『同 下』(文春文庫)

 リンカーン・ライム・シリーズの8作目。タイトルの「ソウル・コレクター」は、シリーズ初巻のの「ボーン・コレクター」を思い起こさせるが、原題は“The Broken Window”(割れ窓)で、「ソウル・コレクター」というのは、著者のディーヴァーが日本版の出版のために提案した複数のタイトルの中から選ばれたものらしい。

 「ボーン・コレクター」は、その名のとおり骨をコレクションする殺人者だったが、ソウル=魂を集める者とはいったいどのような相手なのか?。
 描かれるのは、テクノロジーの進歩により、あらゆるものがネットワークに繋がり、そこで収集される様々なデータから有用な情報を拾い出して個人に関連づけ、利用していくデータマイニング会社の実態と、そのデータを悪用して自分の心の隙間を埋めていくシリアル・キラーという、極めて現代的なテーマである。
 シリアル・キラーはさておき、ビッグデータによる個人監視は十分にあり得る、というか、既に現実に行われているであろう話であり、日常の利便の積み重ねと引き替えにプライバシーを失っている可能性を指摘されると、怖ささえ覚えてしまう。
 「ソウル・コレクター」という邦題が意味する所は、深くて重い。

 ビッグデータの利用と解析は、作中でも登場人物によって語られるように、功罪両面あるので、今更やめられる話ではないだろうが、ネット上では別の人格を設定するとか、そういう対策が個人的にも必要かなと思ったりもした。

 シリーズとしても円熟し、ディーヴァーの描く物語のリーダビリティは今更言うまでもないが、ミステリとしてのみならず、急速に進歩を続ける情報化社会への警句として、是非とも一読をお薦めしたい作品である。☆☆☆☆☆。

 蛇足だが、下巻の巻末には、2010年11月18日に日本で行われたディーヴァーと俳優・児玉清の対談(NHK-BS《週間ブックレビュー》(2010.11.20放送)のためのもの)が再構成して収録されていて、ディーヴァー創作の過程の一端が垣間見えるのも面白い。
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『平原の町』

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2013-2-23 18:25
 今回ご紹介するのは、コーマック・マッカーシー著『平原の町』(ハヤカワepi文庫)
 以前ご紹介した『越境』の続編で、“国境三部作”の最後を飾る作品である。

 未だ読んでないが、三部作の初編『すべての美しい馬』の主人公ジョン・グレイディ・コールと『越境』の主人公ビリー・パーハムのダブルキャストで、1952年時点でニュー・メキシコ州の牧場で一緒に働くことになった二人のその後が描かれている。
 両著で共に16歳だった二人だが、ジョン・グレイディは19歳、ビリーは28歳になっていて、ビリーはジョン・グレイディに死んだ弟の面影を見ており、彼の無謀とも思える行動を温かく見守っている。

 本書は、ジョン・グレイディの悲恋を中心に展開されるが、その縦軸のストーリーの端々に登場人物達の様々な喪失の哀しみや痛みが挟み込まれていく。

 そして、前著『越境』と同様に、世界とは、人間とは何なのか、その歴史とは、といった根元的な問いについての極めて思弁的な会話が、本書を重厚な物語に織り上げて行っている。

 多少難解な部分も確かにあるが、極めてリーダビリティの高い、優れた文学作品である。☆☆☆☆1/2
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『KIZU ―傷―』

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読書
執筆 : 
Dice 2013-2-10 9:52
 今回ご紹介するのは、先日読んだ『冥闇』が秀逸だったギリアン・フリンのデビュー作『KIZU ―傷―』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 アメリカの中西部ミズーリ州のブーツのかかとにある田舎町ウィンド・ギャップ(実在はしない)で10歳の少女が行方不明となる事件が発生。その町では、一年前にも9歳の少女が殺害される事件が起こったまま未解決となっていた。
 シカゴの新聞社に勤めるカミル・ブリーカーは、その町の出身だということで編集長から取材のために送り込まれるが、彼女には、町に住む母親との間に緊張した関係があり、その心と身体には人に言えない傷を負っていた。
 いやいやながらも取材を続けるカミルは、田舎町の人間関係の薄皮をはがしつつ自身の過去をも見つめ直すことになる。
 中西部の田舎町の少女達の危うげな生態を描きつつ、終盤で明らかになる衝撃的な事実と、仰天の結末。

 ネタばれを承知で書くと、本作のモチーフのひとつが代理ミュンヒハウゼン症候群母という精神症だが、それを通して母娘の関係性の構築の難しさや危うさ、人間の心のもろさなどが見事に描かれている。

 著者のギリアン・フリンは、ミズーリ州カンザスシティ生まれで、デビュー作である本作でいきなり2007年のCWA(英国推理作家協会)賞の最優秀新人賞とイアン・フレミング・スチール・ダガー賞(優れたスリラー作品に与えられる)を同時受賞するなど高い評価を得ているが、最後にひとひねり加えて明かされる犯人像などミステリーとしての完成度の高さにも、優れた力量を感じる。

 2007年10月の刊行なので、書店の店頭では入手は難しいかもしれないが(楽天でも品切れ)、探し出してでも読んで欲しい一冊である。☆☆☆☆☆。
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『TOKYTO YEAR ZERO』

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読書
執筆 : 
Dice 2013-2-4 20:51
 この日記の更新も前回から久しく間隔が開いてしまったが、何も書くことが無かったわけではなくて、昨年末からAndroidアプリ開発の勉強に手を染めてみたり、直接は関係ないんだけど職場がらみのこんなことのソースを書いていたりと、それなりに忙しくはしていたのだ。

 しかし、なんとなく気分が乗らないというか、ちょこちょことfacebookに小出しにしてたりすると、きっちりブログとして文章にまとめるためにPCに向き合うのが億劫にもなったりして、ここまで滞ってしまった次第。

 このままぐうたらしている訳にもいかないので、気を取り直して向き合うことにして、2013年最初にご紹介するのは、デイヴィッド・ピース著『TOKYO YEAR ZERO』(文春文庫)

 太平洋戦争末期から敗戦直後の東京において、言葉巧みに若い女性に食糧の提供や就職口の斡旋を持ちかけ、山林に誘い出したうえで強姦して殺害するという手口で行われた実在の連続事件「小平事件」を縦糸にして、当時の東京の風俗や警察組織の実態を横糸に織り込んだミステリ。

 しつこいほどに何度も繰り返される主人公・三波警部補の心象風景のリフレインは、読み進める上では邪魔にも思えるのだが、それが一種独特のリズム感を作り出していて、この時代のざわざわとした混沌や不穏さ、埃っぽく薄汚れた感じなどを演出するのに一定の効果を出しているのは否めない。

 著者のデイヴィッド・ピースは、1967年イングランド北部のヨークシャー生まれで、現在は東京在住。
 本作は著者が構想する戦後混乱期の東京を舞台とした「東京三部作」の第一作で、帝銀事件を題材にした第二作『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II』は2009年に刊行済み(未文庫化)。現在は、下山事件を題材にした第三作を執筆中という。
 実在の事件がモチーフとはいえ、日本人ではない著者が、ここまで占領下の日本のリアリティを伝えられる裏には、膨大な史料の丁寧な読み込みがあるのだろうなと驚嘆させられる。その参考文献リストも巻末に掲載されていて、その幅と量が結構凄い。

 一癖ある文章だけに、とっつきは悪いかもしれないが、2007年の『このミス!』3位という順位も納得の作品である。☆☆☆☆。
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『暴行』

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読書
執筆 : 
Dice 2012-12-24 14:26
 今回ご紹介するのは、ライアン・デイヴィッド・ヤーン著『暴行』(新潮文庫)

 こんなのを「イヤミス」というのかな。
 人は一人殺されるが、謎解きの要素はなく、その暴行殺人事件を中心に、その周りの人々の抱える闇を暴き出す群像劇の様相が強い。

 スポーツバーの夜勤店長の仕事を終えて、自宅のあるアパートに戻ったカトリーナ・マリノ(通称キャット)は、自宅を目前にした中庭で、包丁を持った暴漢に襲われる。
 時刻は明け方の4時、寝静まって誰も見ていないと思われたが、幾多のアパートの住人がキャットの悲鳴を聞き、中庭での惨劇を窓から目撃していた。
 しかし、誰一人助けに出ようとも、警察に通報しようともしなかった。事件に気付きながら、本当に大変なことなら誰かが通報するだろうと考え、その時にそれぞれが抱える問題への対処を優先させてしまったのだ。
 それらの問題は、ひとつひとつを切り出せば、確かに深刻な問題ではある。しかしその間にキティは、一度現場から立ち去り、再び戻ってきた犯人に刺され、最終的には命を落とすことになる。
 読者は、彼女が犯人に刺され、なんとか生きようともがき苦しむ姿と、それと平行してアパートの窓の向こう側で行われる様々な部屋でのできごとを、淡々とした筆致で読まされることになる。
 それがなんとも居心地が悪く、なんとなくイヤな気分にさせられる。

 巻末の「訳者あとがき」によると、この物語は、1964年3月にニューヨークで実際に起きたキティ・ジェノヴィーズ事件をもとに描かれているらしい。
 この事件では、28歳の女性キティ・ジェノヴィーズが惨殺されるのを38人が目撃しながら、誰も警察に通報しようとせず、後に“傍観者効果”なる言葉が生まれるきっかけとなった。

 作者は、傍観者達の心の動きや行動を、現在形で淡々と綴ることによって、自分自身と読者もまた傍観者であることを意識させているかのようだ。

 本作がデビュー作のライアン・デイビッド・ヤーンは、1979年アリゾナ州生まれでロスアンジェルス在住。本作で、2010年度の英国推理作家協会賞(CWA)最優秀新人賞を受賞という期待の若手作家。今後の邦訳が楽しみである。☆☆☆1/2。
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冥闇

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2012-12-15 23:50
 今回ご紹介するのは、ギリアン・フリン著『冥闇』(小学館文庫)

 主人公は、アメリカ中西部・カンザスシティに住む31歳のリビー・デイ。7歳の時に母パティと二人の姉を惨殺され、幼い彼女の不確かな証言によって、兄のベンが犯人として逮捕され刑務所に収監されている。
 事件のトラウマもあって無気力で自嘲的で手癖の悪い生活を送り、事件後に寄せられた善意の寄付金を頼りに生きてきたリビーだったが、その金も底をつき、何とか金を稼がなければならなくなる。
 そんな時、有名事件の真相を語り合う「殺人クラブ」の会合に招かれ、謝礼をもらうために参加することになったリビーは、金のために24年前の事件を振り返ることになり、そこから事件の真相に近づくために、当時の関係者を探し始める。

 現在(2009年)のリビーと1985年のベンとパティ、それぞれの視点で語られる章が織り込まれながら、物語は事件のあったその日に向けて収斂して行く。
 そして明らかになる複雑な事件の真相と、真相を追い求めることによって前向きな人生を取り戻すリビー。

 本書は、リビーの喪失と再生の物語であると同時に、1980年代のアメリカ中西部の陰影に満ちた世相と若者達の風俗、貧困と人間を描き、単なる謎解きミステリーに終わらない重層な世界を構築している。☆☆☆☆1/2。
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