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徒然日記 - 読書カテゴリのエントリ

越境

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2012-12-8 21:48
 今回ご紹介するのは、コーマック・マッカーシー著『越境』(ハヤカワepi文庫)

 コーマック・マッカーシーと言えば、以前読んだ『ブラッド・メリディアン』がその暴力性で印象深いが、本作の舞台も同様にアメリカ南西部からメキシコ北部にかけての地域である。

 本書は、1940年代アメリカの辺境の地で、少年ビリーの16歳からの4年間の過酷な日常と成長を描く青春小説であり、アメリカとメキシコの国境をまたぐ旅での様々な出会いを描くロードノベルでもある。

 しかしそれ以上に、ビリーが旅先で出会う人々が語る幻想的な物語の寓意性、哲学性、宗教性が際だち、神とは何か、人間とはどういう存在であるのかを問いかける骨太な小説である。

 ある意味哲学書のような小難しさもあるので、手軽にさくさくと読める作品ではないが、幾度となく読み返したくなる重さを持った、アメリカ現代文学を代表する作品と言えるかもしれない。☆☆☆☆1/2。


 著者のコーマック・マッカーシーについてビブリオグラフ的なことを書けば、1992年に発表され全米批評家協会賞と全米図書賞を受賞した『すべての美しい馬』、本作(1994)、『平原の町』(1998)の三編で“国境三部作”をなすらしい。前後作はいずれも未読なので、いずれ読んでみなければ。

 また、2005年発表の『血と暴力の国』は、2007年にコーエン兄弟によって『ノーカントリー』(原題: No Country for Old Men)として映画化され、同年の第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の計4冠を受賞と話題を呼んでいる。
 で、その『ノーカントリー』で助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムが、現在公開中の『007 スカイフォール』で悪役を演じているということなので、是非とも観に行かねばね。
 
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破壊者

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読書
執筆 : 
Dice 2012-11-24 21:37
 今回ご紹介するのは、ミネット・ウォルターズ著『破壊者』(創元推理文庫)

 イギリスの南西部、ドーセット州チャプマンズ入り江に打ち上げられた女性の全裸死体が発見され、同じ頃にその現場から20km以上離れたリリパットの町で自閉症らしき幼い女の子が一人で歩いているところを発見される。
 検死解剖の結果、溺死した女性は、扼殺未遂のまま海に投げ込まれ、長時間漂ったあげくに末に絶命し、レイプされた痕跡があり、何本かの指を折られた上に14週になる男児を身籠もっていたことも判明する
 また、発見された幼女は、この女性の一人娘であったことも、父親からの連絡で判明する。

 娘から離れることの無かったはずの母親が、なぜ殺されるにことになったのか、関係者の聞き込みが開始される。
 それぞれの立場で見方の異なる被害者像、関係者像が、複数の人間の証言によって次第に立体的に浮かび上がり、被害者と犯人を結びつけ、事件の真相が明らかになる。

 「証言の食い違い」を突き詰めていく捜査陣、複数の関係者をめぐる重層的な物語が、証言を通じて紡ぎ上げられていく。

 著者のミネット・ウォルターズは、1992年のデビュー作『氷の家』で英国推理作家教会(CWA)最優秀新人賞(ジョン・クリーシー賞)を受賞、1993年の『女彫刻家』でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)エドガー・アラン・ポー賞年間最優秀長編賞、1994年の『鉄の枷』と2002年の『病める狐』でCWA年間最優秀長編賞(ゴールドダガー)を受賞と、名実共に「ミステリの新女王」と称される作家である。

 著者の第6長編となる本書でもその実力は遺憾なく発揮され、500ページを超える長編ながら、見事なページターナーとなっている。☆☆☆☆1/2。
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はいつくばって慈悲を乞え

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読書
執筆 : 
Dice 2012-11-23 11:26
 今回の通勤電車内読書は、ロジャー・スミス著『はいつくばって慈悲を乞え』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
 南アフリカ共和国・ケープタウンの貧民居住区ケープフラッツを舞台にしたクライムノベルだ。

 アメリカ人の元モデル、ロクシー・パーマーは、夫のジョーと車で出かけた帰りに、乗っていた車を強奪しようとした二人組の男に襲われるが、そのどさくさに紛れてジョーを射殺する。
 警察は、強盗殺人事件として二人の行方を追うが、そのうちの一人ディスコは、犯罪組織のトップで今は刑務所の中で将軍として君臨しているバイパーと深い関係にあり、バイパーの元に戻ることを約束させられていた。
 一方、ロクシーの前には傭兵斡旋業者だったジョーに雇われていた元警官のビリー・アフリカが現れ、未払いの給料を取り戻すためにロクシーのボディーガードを買って出る。
 犯人を追う警察の一員アーニー・マーゴット警部は、昇進するために人目につく大きな事件の解決を目指しており、犯人はロクシーではないかと睨んで動き始める。

 物語は、ロクシーを中心に動いているように見えるが、実は登場人物達それぞれが暗い過去や厳しい現実を抱え、それを乗り越えようともがきつつ生きている。
 麻薬が蔓延し、どん底の環境でその日その日を生き抜かなければならない人々が生活する貧民居住区を背景に、跋扈する犯罪組織同士の勢力争い、腐敗する警察組織などを織り込みながら、そうした登場人物達の生き様を描く群像劇と言って良いだろう。

 巻末解説の冒頭でミステリ評論家の関口苑生氏も「小説には多かれ少なかれ現実が反映されているものだ。」書いているが、本作で描かれたケープタウンも少なからず現実の貧困と混沌を反映しているとすれば、その絶望的なまでに厳しい現実に打ちのめされそうになる。☆☆☆1/2。
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邪悪

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読書
執筆 : 
Dice 2012-11-10 17:31
 今回の通勤電車内読書は、ステファニー・ピントフ著『邪悪』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 1905年11月、ニューヨーク郊外の小さな町ドブソンの一軒家で、若い女性の惨殺死体が発見された。殺されたのは、数日前から伯母の家に滞在していたコロンビア大学院生で数学を専攻しリーマン予想を研究していたサラ・ウィンゲート。
 捜査に当たるのは、ニューヨーク市警刑事局から5ヶ月前にこの町の警察署に移ってきたばかりの30歳の刑事サイモン・ジール。
 そのサイモンの前に、犯人に心当たりがあるという人物が現れる。コロンビア大学法学部の教授で、犯罪者の行動と心理を研究する犯罪学研究所を主宰するアリステア・シンクレアだ。

 ジールはシンクレアの話を聞き、彼が研究の対象とし、今回の事件の手口と酷似した妄想を語っていたというマイケル・フロムリーという男を捜し始めるが、サラとフロムリーの周辺を探るうちに、事件は意外な展開を見せ始める。

 1905年のニューヨーク市長選挙を巡る史実、指紋鑑定など科学捜査がまだ一般的でなかった当時の捜査手法や、ニューヨークの街の風俗、女性の社会進出を巡る心理などを背景に、犯罪に手を染める者達の心の闇に迫る傑作ミステリ。

 賭博にのめり込んで身を滅ぼした父を持ち、事故で妻を失ったジール、ひとり息子を犯罪者に殺されたシンクレア、そのひとり息子の妻で今はシンクレアの助手を務めるイザベラ。
 いずれも喪失の痛みをを知り、その痛みを克服するために何故?を問い続け生きる人々の物語でもある。☆☆☆1/2。

 本作がデビュー作のステファニー・ピントフは、この作品で2010年度のアメリカ探偵作家クラブ賞新人賞を受賞している。
 この刑事ジールと犯罪学者シンクレアのコンビの物語は、第二作『ピグマリオンの冷笑』が既に刊行済みなので、ジールとイザベラの仲に進展があったのか、確認するのが楽しみでもある。
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堕天使の街

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2012-11-4 14:23
 今回は、通勤電車内じゃなくて宮崎出張中の空き時間に読んだ、サラ・グラン著『堕天使の街』(小学館文庫)

 舞台は、1950年5月のニューヨーク。主人公は、ジョゼフィン(ジョー)・フラニガン。かつては麻薬中毒で、今は立ち直ってクスリを近寄せないようにしているものの、スリや盗品売買という軽犯罪で生計を立てなければならいほど最下層で暮らしている。

 そんなジョーの元に、裕福な夫婦から麻薬中毒になった挙げ句に失踪した女子大生の娘ナディンを捜して欲しいという依頼が舞い込む。ジャンキーの行方は元ジャンキーが探すのが一番手っ取り早く確実だろうという訳だ。

 法外な謝礼に惹かれたジョーは、ダンサーをしていたというナディンを探し始めるが、その行く先は、若い女性の転落の軌跡をたどって、次第に底辺へ底辺へと向かっていくことになる。
 そして遭遇するナディンを食い物にしていた男の死と、警察によるジョーへの疑い。

 ジョーを使って男を捜させ殺したのは誰なのか、謎解きは後半に加速し、最後に明らかになる真犯人の姿。結末は、暗く哀しい。

 ニューヨークの裏社会を、転落から這い上がろうと懸命に生きるジョーの視点から活写しつつ、一度嵌ってしまうと抜け出せない蟻地獄のようなクスリの怖さを描く会心作ではあるが、読後感はなんともやるせない。☆☆☆1/2。
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迷宮の淵から

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読書
執筆 : 
Dice 2012-11-3 15:10
 今回の通勤電車内読書は、ヴァル・マクダミード著『迷宮の淵から』(集英社文庫)

 主人公は、カレン・ピーリー。スコットランド・ファイフの州都グレンロセスの警察署で未解決事件再捜査班の警部補。
 その警察署をひとりの女が訪ねてくる。難病で骨髄移植が必要な幼い息子を救うため、一縷の望みをかけて、22年前に炭坑町から姿を消した父親を見つけて欲しいという。

 再捜査班に回されたその依頼の捜査を開始したカレン警部補だったが、その途中でエディンバラに住む大富豪のブロデリック・マクナレン・グラントに呼び出され、やはり22年前に起きて迷宮入りしていた、ブロデリックの娘と孫の誘拐殺人事件の再捜査を依頼される。
 ジャーナリストのアナベル・リッチモンドが、イタリア・トスカーナの廃屋で、22年前の事件につながるポスターを発見していたのだ。

 カレン警部は、2つの事件を平行して捜査することになり、炭坑町のファイフで聞き込みを始めるが、その一方でブロデリックは、情報を持ち込んだアナベルを使って、消えた孫アダムの行方を追わせようとしていた。

 22年前の過去と2007年の現在、スコットランド・ファイフとイタリア・トスカーナ、登場人物達の証言の内容に合わせて、2つの時代と複数の場所が舞台となった章がシャッフルされて織り上げられる物語は、やがて全く関係のなさそうな二つの事件を、現代の悲劇へと収斂させて行く。

 600ページを超える長編でありながら、ページをめくる指を止めさせることにない見事なページターナーで、全く長さを感じさせない。☆☆☆☆☆。

 著者のヴァル・マクダミードのことは、本作で初めて知ったが、巻末の解説を読むと、1995年に『殺しの儀式』でCWAゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会最優秀長編賞)を受賞し、2010年には永年の功績を讃えられてダイヤモンド・ダガー賞をも受賞している英ミステリー界の重鎮らしい。
 恥ずかしながら、寡聞にして知らなかった。でも、過去の作品を遡って読む楽しみができたというものだ。
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暴力の教義

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2012-10-27 15:59
 今回の通勤電車内読書は、ボストン・テラン著『暴力の教義』(新潮文庫)

 リンカーンがフォード劇場で撃たれた日(1865年4月15日)に「賭博と売春宿と安酒に溺れてうごめく寄生虫の巣窟のような町」で生まれたローボーンと、ユリシーズ・S・グラントが死んだ日(1885年7月23日)に「リオ・グランデ川沿いに、むさ苦しい日干し煉瓦の家が建ち並ぶ居住区(バリオ)」で生まれたジョン・ルルド。
 ともに父を知らず、母を早くに亡くし、孤独にたくましく生き抜いてきた過去を持つが、実はルルドはローボーンが捨てた息子だった。

 お互いを知らぬまま、それぞれ殺人者と合衆国捜査局特別捜査官としてテキサスで偶然に出会い、潜入捜査のために一緒に革命前夜のメキシコに旅することとなった二人の、波乱に満ちたロードノベル。

 前作の『音もなく少女は』が非常に良かっただけに期待したのだが、残念ながら本作の出来はいまいち。どうもテランという作家、出来不出来の波が大きいようだ。

 ハードボイルにつきものの「喪失と再生」という枠組みに父子の物語を織り込もうとしているのだろうが、テランならではな暴力性が、その物語に邪魔されてどうにも中途半端。
 かと言って、殺人者と捜査官という役割では喪失していた父子関係の再生という流れにもうまく乗れず、どうにも隔靴掻痒の感がある。
 物語後半、メキシコ革命と合衆国政府との陰謀めいた関わりが軸となり、そこをもっと膨らますと面白くなるのではないかとも思うのだが、なんとなく尻すぼみに終わってしまった。

 本作、映画化も予定されているように、素材としては悪くないのだが、ボリュームと味付けで折角の素材を生かし切れていないのが残念。☆☆1/2。
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ダークサイド

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読書
執筆 : 
Dice 2012-10-19 9:34
 今回の通勤電車内読書は、ベリンダ・バウアー著『ダークサイド』(小学館文庫)

 デビュー作である前著『ブラックランズ』がいきなり2010年ゴールド・タガー賞(英国推理作家協会・最優秀長編賞)受賞という快挙を成し遂げたベリンダ・バウアーが舞台として選んだのは、今回も前作と同じロンドンから遙か西にあるエクスムーアの寒村シップコット。

 そのシップコット村で、脊椎損傷により首から下が麻痺して寝たきりになっていた老女マーガレット・プリディが何者かによって殺害される。
 村のたった一人の巡査ジョーナス・ホリーは、州都トーントンから来た殺人課の警部ジョン・マーヴェルの指揮下に組み入れられ、マーヴェルから疎まれながらも彼なりに事件を解決しようとするが、彼のよく知る村人達が次々に殺される連続殺人事件に発展してしまう。
 殺害されたのは、いずれも病気や障害などで家族に介護の負担をかけていたような人々。そして、ジョーナスにも多発性硬化症という進行性の難病を患い、日常生活がだんだんうまく行かなくなってきている妻のルーシーがいる。
 殺人者の影がルーシーに忍び寄ろうとする時、霧が晴れるように一連の事件の真相が明らかになるのだが…。

 お互いを支え合いながら生きるジョーナスとルーシーを始め、田舎の寒村で暮らす人々や様々な問題を抱えながら捜査に当たる刑事達の心の襞を描く筆力はさすがだと思う。
 前作で主人公だったスティーヴン・ラムも端役で登場し、トラウマを抱えながらも健気に生きていることを教えてくれる。彼の家族も皆なんとか元気なようだ。
 しかし、本作の場合は、犯人像と殺人に至る動機がどうにも納得できない。
 以下ネタばれになるけども、乖離性同一障害(多重人格)では、交代人格は主人格を守るために必要があって発生するのであり、それが積極的に他者に関与して殺人を犯すという構成は、障害への理解や影響力のある作家の態度として、いかがなものか。
 暗く救いのないエンディングもいただけない。ひょっとして、まだジョーナスの物語に続編があるのかとも思ってしまう。
 途中まで良かっただけに、最後の謎解きの部分以降が非常に残念。☆☆1/2。
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テッサリアの医師

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
Dice 2012-10-13 22:16
 今回の通勤電車内読書は、アン・ズルーディ著『テッサリアの医師』(小学館文庫)
 『アテネからの使者』、『ミダスの汚れた手』に続く、「太った男」ヘルメス・ディアクトロスが主人公のミステリ第三弾である。

 今回、「太った男」が小さな田舎町モルフィで追うのは、ヌーラとクリサという少し年のいった独身姉妹の妹クリサと結婚式を挙げようとしていたフランス人医師シャブロルが、顔面に薬品をかけられ失明に追い込まれた事件の真相。

 しかし、いつものように単なる謎解きでは終わらないのがこのシリーズの真骨頂で、今回、全編を貫くテーマは、冒頭に引かれている「『転身物語』オウディウスより第2巻」に登場する〈嫉妬〉。

〈嫉妬〉は他人を蝕みながら、それによって自分をも蝕んでいく。それが〈嫉妬〉の永遠に終わらない自分を罰する地獄なのだ……。

 被害者である医師の秘密と、その秘密によって起こった悲劇という謎解きの傍らで、著者のズールディは、〈嫉妬〉に蝕まれた村人達の愚かな行動を描くことによって、人間の根元的な弱さをも焙り出そうとしている。

 愚かで弱い人間に対する温かい視点、罪にはしっかりと罰を与え、懸命に生きる者には救いを用意する、含蓄や警句に富んだストーリーは、最後にほのぼのとして爽やかな読後感を与えてくれる。☆☆☆☆。
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ブラックランズ

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読書
執筆 : 
Dice 2012-10-7 14:08
 今回の通勤電車内読書は、ベリンダ・バウアー著『ブラックランズ』(小学館文庫)

 主人公は、12歳の少年スティーヴン・ラム。父親を亡くし、母親と祖母、弟の4人でイングランド南西部のエクスムーアにあるシップスコット村で暮らしている。
 祖母のグロリア・ピーターズは、19年前に息子のビリー(スティーヴンにとっては叔父に当たる)を自動連続殺人犯のアーノルド・エイヴリーに殺されてどこかに埋められて行方不明になって以来心を閉ざし、母親のレティも鬱屈した感情を抱えたまま、スティーヴンへの対応にもその陰を引きずっている。

 スティーヴンは、叔父ビリーの遺体を発見して事件に終止符を打てば、そんな祖母や母の状況を変えることができるのではないかと考え、スコップ片手に、エクスムーアの荒野を掘り変える毎日を送っている。

 どちらかというと目立たない、いじめられっ子のスティーヴンだが、唯一先生に誉められたことのある手紙を書く能力だけが自分の取り柄だと信じており、ある日、獄中のエイヴリーにビリーの所在を訪ねるため、その能力を駆使して手紙を書く。
 その手紙が、退屈で絶望的な日々を送っていたエイヴリーを刺激し、二人だけに通じる暗号めいた手紙のやり取りが繰り返されることになるのだが、それがエイヴリーの欲望を限りなく膨らませることとなり、やがて対決の日が訪れる。

 サスペンスの体裁を取っているものの、ひとりの少年の冒険譚であり成長譚として、よく練られた物語であり、ロバート・R・マキャモンの『少年時代』にも通じるところがある。
 決して幸福とは言えない環境の中で、家族を理解し、愛し、冷静に自分の置かれた状況を見つめ、捨て鉢にならず懸命に努力する主人公スティーヴンのけなげな姿がいじらい。☆☆☆☆。
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