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本物の図書館・博物館づくりを目指して
 この論考は、滋賀県能登川町立図書館・博物館長の才津原哲弘さんが、能登川の図書館・博物館づくりについて書かれたもので、国土交通省の広報誌「国土交通」2003年1月号に掲載されました。
 職場で回覧された掲載紙をたまたま読んで、その内容に共感するとともに、このまま埋もれさせておくのももったいないと思い、旧知の才津原さんにメールしてWebサイトへの転載の許諾をいただきました。
 私自身、1999年10月13日に能登川の図書館を訪問しており、その時のことは、このサイトの「図書館探訪」の中にまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。
→ 能登川町総合文化情報センター 図書館探訪記へ
2003.2.1 Dice

本物の図書館・博物館づくりを目指して
〜琵琶湖のほとり、水、緑、人が輝く水車の町から〜

才津原館長 滋賀県能登川町
能登川町立図書館・博物館長
 才津原 哲弘


能登川町のこと、施設の概要について

 能登川町は滋賀県のほぼ中央部、琵琶湖の東岸に位置し人口約23,000人、面積31k崢の小さな町です。豊かな自然と美しい景観に恵まれ、広々とした田園の広がる町ですが、京都へはJRの新快速で40分弱の所にあり、京都、大阪の通勤圏となっています。また、町境に安土城址があり、古代からの歴史の豊かな町でもあります。
 能登川町に、図書館、博物館の複合施設(4,051)と、隣接した埋蔵文化財センター(1,574)の三つの施設からなる能登川町総合文化情報センターが開館したのは、1997(平成9)年11月のことです。総合文化情報センターというのは、三つの施設の総称で、組織としては、それぞれ教育委員会の中の課としての位置付けですが、埋蔵文化財センターは生涯学習課の所管で、課長が同センターの所長を兼務しています。総称した名称がつけられたのは、三つの施設がばらばらにあるのではなく、三つが一緒にあることのプラス面を運営に反映させ、住民にとって、より魅力的で、より役立つ施設となることを目指してのことです。

開館までの経緯、留意したこと

 1980(昭和55)年の滋賀県立図書館の新館開館以来、県下では県の図書館振興策の策定と県立図書館の、他の府県に例をみない、市町村の図書館づくりへの強力な支援の中、住民の強い支持を受けた図書館が続々と誕生してきました。能登川町の近隣でも、八日市市立図書館や湖東町立図書館など、その質の高いサービスで、全国的に注目される図書館が活発な活動を展開し、町が実施する町づくりアンケートで、図書館を要望する声が毎年、第一位を占める状況が続きました。
 こうした声をうけ、町では図書館づくりに向けての動きを始め、1995(平成7)年4月、建設準備室を設置しました。建設費の財源については自治省(当時)の地域総合債で対応することを考えていたことから、条件として複合施設であることが求められ、図書館と博物館との複合とすることとなりました。
 滋賀県での図書館づくりには二つの大きな特徴があると言われています。一つは図書館づくりを始めるに当たっては、まず準備室をしっかり設置することから始めるということ、二つ目が、その準備室を設置する際、将来、館長となる人を準備室長(専任、正規、専門職)として招聘してきたということです。直截に言えば、将来、館長となる人の確保から始めることこそ、図書館づくりを始めるに当たって肝心要のことであると考えてきたということです。そして、そうした図書館がいずれも住民の期待に応える活動を積み重ねてきたことが、能登川においても、そのことを実現させた大きな力になったと言えます。(全国的に専任、正規で司書有資格の館長は非常に少ない。[福岡県:53館中4人(8%)、滋賀県:40館中27人(68%)]/館長の位置付けは職員体制と直結している。)


2001年(平成13年)度
県 名 図書館設置自治体 専任職員 人口1
人当貸
出冊数
市区 町村 市町村
全体
(%)
有資格
者率
(%)
職員1人
当人口
(千人)
市区数 設置
市区数
設置率
(%)
町村数 設置
町村数
設置率
(%)
滋賀県 7 7 100 43 32 74 80 82 6 6.19
福岡県 24 23 96 73 30 41 55 52 14 4.11
全国平均 694 679 98 2,556 966 38 51 49 8 4.10
※『図書館年鑑2002』日本図書館協会刊、2002

 こうした状況の中で私は、それまで勤務していた福岡県内の町立図書館を辞め、準備室長として能登川町での図書館づくりに重大な責務を担うことになりました。開館までの2年6ヶ月の間、準備室長として最も力を尽くしたのは、職員の確保と継続的、長期的な図書費の確保(開館時の5万冊、開館後、1万冊の図書の購入)でした。職員については、正規職員7名(6名が司書、内4名は全国公募により採用)の確保、図書についても、ほぼ基本構想や基本計画に則った購入、収集ができました。人件費、物件費を含む図書館費のランニングコストは年間およそ1億1,300万円で、これは町の一般会計の1.5%〜1.6%に当たります。それまで図書館費が0であったことを考えると、町として重大な政策判断とでもいうべき予算措置であり、厳しい財政状況の中で行政として何に重点的に取り組むかを明確に示したものでもあります。(博物館 − 学芸員3名、内1名は嘱託)

建築について

カウンターで  図書館の建築に当たっては、図書館は0歳から高齢者まであらゆる年代の人が生涯にわたって、また、日常的に利用される施設であるため、親しみやすく、利用しやすい建築であること、同時に地域の人の憩いの場、活動の場、誇りの場ともなるべきことが求められる建築であることから、設計事務所の選考がとりわけ重要だと考えました。私自身、前の仕事場で初めて、図書館建築に深い思いと高い志を持って取り組む経験豊かな建築家がいることを知らされ、また、建築家の中には、設計料の多寡による入札には最初から参加しない人のいることも聞いていました。このため、庁内で従来とは違う設計金額の設定方法について説明し了解を得ると共に、設計事務所の選考に当たっては最終的には、図書館建築の経験のある4社による指名プロポーザル方式で行いました。どの設計事務所の誰が実際の設計を行うかを重視し、個人の設計事務所の参加もありました。
児童コーナーで  また、図書館の空間がどのようなものになるかについては書架などの家具の果たす役割が非常に大きいと考え、図書館家具の製作に実績のある3社による指名入札を行いました。落札後は、設計事務所、家具の制作業者と協議を重ね、細やかな要望を取り入れてもらいました。
 博物館には住民から寄贈された6,000点をこえる民俗資料や古文書、自然系の資料などがありますが、常設展示は意図的に行っていません。これは、いつも同じものを展示していては、住民に繰り返し来館してもらえないと考えてのことです。1年に企画展だけで9回、毎月、展示内容を変えています。多い時には4つの展示を同時に行うこともあります。当然、3人の学芸員だけで行えるものではありません。すさまじい住民の協力と活動に支えられてのことです。博物館活動の対象は能登川町やその周辺の人文や自然、森羅万象すべてで、学芸員は「雑芸員」と自称して、専門外のことは、近隣の学芸員やそのことに詳しい住民の協力を得て、住民と共に活動しています。図書館と一緒にあることで、本・モノを見て、触れて、体験しながら学ぶことができます。
博物館(そば打ち体験教室) 博物館で建築面で特に配慮した点は、ギャラリーとそれに隣接した体験学習室の壁を移動壁にしたことです。この5年間で38回の企画展を行っていますが、展示室とあわせていつも異なった空間を工夫して移動壁を最大限、活用しています。

誰のための地方分権かを見分けるには

 開館して5周年を迎え、図書館の蔵書は約14万冊となりました。図書館が開館する以前は町には公民館図書室しかありませんでしたが、当時は町民の2%、約500人位の人が年間10,000冊程の貸出をしていました。今年度は町民の65%、15,000人の登録者、年間300,000冊を超える貸出が見込まれ、登録者、貸出冊数とともに約30倍の利用となっています。平成13年度の人口一人当たりの貸出冊数は12.6冊で全国平均4.1冊の約4倍です。このことは如何に町民のだれもが図書館を求めていたかを何より強く示すものと受け止めています。
 能登川町の図書館、博物館はそれぞれの設置条例において、その設置の目的を、「町民の生涯にわたっての自己学習を保障し、すべての町民の豊かな暮らしを実現するとともに、魅力と活力ある郷土づくりを推進することを目的とする」と定めています。21世紀に入り、今、国の内外にあって激動の時代ですが、住民のだれもが、自分の住む地域で、よりよく生き、真に豊かな暮らしを実現していくためには、生涯にわたっての自己学習が欠かせません。住民の生涯にわたる自己学習を保障する本物の図書館を設置し、運営することは行政の責務であり、今ほど、その内実が住民から問われている時はないのではないかと考えます。
 50年間にわたって日本の公立図書館に関わってこられた図書館計画施設研究所所長の菅原峻氏は、町村の6割、1,600を超える自治体に図書館が未設置である現状をふまえ、いまある全国約2,600の公立図書館のうち、「(1)本物の図書館」といえるのは全体の5%ほど、半分以上が「(2)図書館という看板の下がった役所」、残りの70〜80%が「(3)無料の貸本屋」であり、しかも当初(1)であっても(2)(3)化していくケースが珍しくないと雑誌でのインタビューで述べています(「アミューズ」2000.1.26/毎日新聞社)。図書館は言うまでもなく行政組織の中の一機関ですが、各課で必要とする資料や情報を提供するところでもあり、行政全体の基盤とも言うべき機関です。その町の図書館が行政の中で、どのように位置づけられ利用されているか(図書館費が一般会計の1%を超えているか、どうか)、そのことが、各地で取り組まれている地方分権への取り組みが住民自治、住民主権へ向けての本物の取り組みか否かを見極めるリトマス試験紙となる時が今、目の前にあると考えています。

初出:「国土交通」2003年1月(第56巻第1号) 国土交通省

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