南郷町立図書館

訪問日:2001年9月26日(水)

 遅い夏休み(三連休)がとれて自由な時間ができたので、串間市に続いて宮崎県南部の図書館を探訪することとし、車で南那珂郡南郷町にでかけました。

 当日は、生憎の雨模様で、国道220号線を南下する途中で強い雨にも見舞われましたが、南郷町に到着する頃にはなんとか雨も上がりました。
南郷ハートフルセンター碑銘 南郷町の図書館は、外浦(とのうら)漁港に近い、「南郷ハートフルセンター」と呼ばれる複合施設の一角にあります。この町は両親の故郷でもあり、最近も仕事で何度も訪れているので場所はよく知っており、迷うことはありませんでした。初めて行かれる方は、JR南郷駅前から都井岬方面に行くと、右手に大きな建物が見えるのでわかるのではないかと思います。残念ながら、今のところ図書館のホームページはありませんので、南郷町のWebサイトを参考にしてください。

図書館入口

案内図 少しわかりにくいが、駐車場近くにあったハートフルセンター案内板の拡大写真。
 上の外観写真と併せて見て、中央のふれあい広場をはさんで、左側が「文化会館」、右側が「生涯学習館」となっており、図書館は「生涯学習館」の1階の南側(案内板では下側)にある。
 開館は1995(平成7)年12月で、図書館部分の延べ床面積は628㎡。設計は、ハートフルセンター全体で、宮崎市にある株式会社宮崎設計とのこと。


ふれあい広場 ハートフルゲートをくぐると、正面には「ふれあい広場」が広がっている。かなり広い空間で、ここでもいろんなイベントができそう。


文化会館 左手にあるのが「文化会館」。音響施設の立派な801席の大ホールと300席の小ホールを持っており、コンサートや演劇、講演会など各種のイベントが行われる。


生涯学習館全景 「ふれあい広場」をはさんで、「文化会館」の反対側に建つのが「生涯学習館」。


生涯学習館入口 ハートフルゲートをくぐり、ふれあい広場を通って「生涯学習館」の入り口へ。
 アプローチから3段上がっているが、車椅子の場合は写真の右手からスロープがある。


生涯学習館エントランス 玄関を入ると吹き抜けになっており、白い壁面で明るい。
 右手に見えるガラスの奥が図書館。左手は美術・資料展示室で、奥には教育委員会の社会教育課が同居している。
 2階には上がらなかったが、大研修室、視聴覚室、調理実習室、和室などがあり、様々な学習活動で利用されているらしい。


図書館入口 図書館の入り口。両開きのガラス扉だが、開閉は自動ではない。閉まっている時に車椅子で来るとちょっとつらいかも。
 ガラス面が大きいので中がよく見えるが、「図書館」表示は扉の上に小さく出ているだけ。もっと大きく暖かみのある表示があっても良いと思う。
 入り口の右側には移動式の返却ボックスがある。


カウンター 入り口を入ると左手にカウンター。長い直線のカウンターで、ちょっと機動性悪し。
 写っているのは、この図書館唯一の専任職員で司書資格のある崎村さん。この他に、統計上は兼任職員が2人と非常勤職員2人(うち司書資格あり1人)がいるが、兼任職員は教育委員会の他の業務を主に担当しているので、実質は3人でこの図書館を運営している。基本的に土日祝日も開館しているので、代休の割り振りなど大変だと思う。この人数では、館内の書架整理もままならないし、余裕がない状態ではないかと思う。ご苦労様である。大変さがわかるだけに、ここではちょっと辛口の批評は書きづらい。
 図書館をつくるのは結局のところ「人」なので、町当局には、職員配置をもっと検討して欲しいところである。小さい町ではあるので、役場も大変なのだろうが…。


入り口から右手奥を望む 入り口から、右手奥の方を見るとこんな感じ。
 入ってすぐの所に、2つの木製のテーブルの上に図書館お奨めの本が所狭しと並べられ、その奥に書架が並ぶ。内装が白で、ガラス窓に囲まれているので、館内は明るい印象だが、天井がやや低い感じ。
 2階が乗っているので構造上やむを得ないのかもしれないが、中央の太く丸い柱が閲覧室の造りとしては邪魔。うまくやれば、設計の段階で書架配置などと併せてうまく処理できたのではないかと思うが、どうにも発注者側からの要求はなく、とりあえず四角い空間だけを置いてしまったという感じがする。このあたりが、複合施設にありがちな安易さか。複合施設でも、ちゃんと考えれば良いものはできるのだが…。

児童コーナー

児童コーナー全景 カウンター前を奥に進むと児童コーナー。
 4段の中書架が5本と、その奥に10cmほど上がった木のフローリングの絵本コーナーがある。一般書のコーナーとは、2本の柱とその間にある机で仕切られた感じになっているが、空間的には特別な演出は無し。


絵本コーナー フローリングになっている絵本コーナー。絵本だけかと思いきや、3段の低書架が3本配置されて、児童書が置かれている。
 壁面は、職員が色画用紙などで手作りした作品が飾られて季節感を出している。聞けば、非常勤職員の方の中に、元幼稚園の先生がいらっしゃるとか。作品は、毎月変えられるらしい。


絵本架 壁面の3段の作りつけの絵本架。上面を利用して、壁に立てかける形で少しだけ面展示されているのがわかるだろうか。
 排架は書名の50音順。


絵本架2 反対側の壁面にも絵本架。こっち側は、壁の作品の関係もあるのか書架上面の面展示はなし。
 ここの図書館の絵本架は、特に絵本架として設計された訳ではなく、他の書架と同一のデザインのように思える。3段に作るのであれば、上2段は面展示専用の造りにし、再下段をストック専用にした方が、絵本の特性を良く活かせるし、子ども達の目を惹きやすい。


窓下ベンチ 東側に面した窓下いっぱいに作りつけられた直線のベンチ。木を使っている割には暖かみを感じないのは、デザインのせい?。実際に座ってみたが、大人の私にはあまり座り心地も良くない。
 どうせなら、ここも絵本架にして、絵本をたくさん面展示できるようにすると良かったのに。


円形ソファー 絵本コーナーのフローリングの上に置かれた円形のソファー。
 この色といい材質といい、どうにもこの場に似つかわしくない。家具は置けばいいってもんじゃない。場の雰囲気作りに大きく影響を与えるし、使う側の立場に立って、使い勝手も考えなければならない。


絵本コーナーの利用者 たまたま居合わせた親子連れの利用者。
 実は、一般コーナーの離れた場所にいた時に、この親子連れが絵本コーナーにいるのに気づいたのだが、それは子どもがこのフローリングの床を走る音がドシドシと聞こえてきたから。
 小さな子どもの足音が響くのは、利用者が悪いわけではなく、完全なる設計ミス。ここだけ雰囲気を変えて木のフローリングにした意味がない。


紙芝居架 紙芝居用の書架。上下2段で、両面使えるようになっている。
 下段には、大型の絵本が横にして置かれていた。壁面の絵本架には大型絵本を排架する場所が無いので苦肉の策なのかもしれないが、これではちょっと…。棚板の高さを変えるなり、思い切って全部を絵本架の天板の上に面展示で並べてしまうなり、工夫が必要。


3段の児童書架 絵本コーナーに置かれた3段の児童書架。デザインは、他の4段の書架と全く同じ。
 棚には余裕があるが、その反面、倒れている本があったり(右の一番下の段)して、ちょっといただけない。職員の目が十分に行き届いていない証拠で、態勢が十分でない影響がこんなところに出てくる。書架は正直だ。


児童書用書架 こちらが、一般書の書架と同じ4段の中書架。書架は、日南市の木工店に特注した品らしい。ただ、発注者側にノウハウが無いので、宮崎県立図書館の書架(こちらも県産材を使った特注品)を参考に、高さだけ抑えて(宮崎県立は5段の高書架)しつらえたらしい。結果的に、一番真似てはいけない部分を真似てしまったことになる。隣の串間市立を真似ておけば良かったのにと思うが、時既に遅し。
 ここでは児童書が並んでいるが、棚板の奥行きが深いので、斜め横から見ると、棚板と縦の側板が目立ってしまう。職員は、なるべく棚板の前の位置で揃うように並べる努力をしているらしいが、子ども達がいつの間にか丁寧にも奥に押し込んでしまう場合もあって、きれいには揃わない。


絵本架正面 児童コーナーと一般コーナーの間にあるテーブルと椅子。2本の円柱に挟まれたこのスペースが、大人と子どもの緩衝地帯。
 それぞれのテーブルの上に鉢植えの植物が置いてあるは、雰囲気を和らげるためのせめてもの工夫か。紙で折った屑入れも置いてあった。

一般書コーナー

一般コーナー全景 入り口横の少し高い位置から一般コーナーを眺めたところ。


一般コーナー南側 一般コーナーの南側窓付近。
 この日はやや曇り気味だったが、ガラス面の開口が大きいので夏場はかなり暑くなりそうな感じ。ブラインドは欠かせないらしい。
 明るさを取り入れつつも直射日光が書架まで射し込むのを避け、なおかつ開放感を演出するのは図書館建築の大いなる課題。設計者の腕の見せ所なのだが…。


一般コーナー西側 一般コーナーの西側窓付近。
 こちら側にも4人掛けのテーブルが並ぶ。こうやって見てみると、施設の中央に書架を配し、ガラス面の開口の大きい窓に沿って4人掛けの四角いテーブルが並んでいる所などは、なんとなく宮崎県立図書館の一般閲覧室を彷彿とさせる。


一般書架 一般書の書架。書架については、児童コーナーのところで詳述したから、これ以上の説明は必要ないだろう。高いお金を出して、国産の一枚板を使って特注しても、ちょっと間違うとこんな使い勝手の悪い書架になってしまう。心すべし。
 開架されている蔵書は、訪問時点で約38,000冊。棚にはまだ余裕があるし、ここに並んでいる版型の本なら、棚板を増やして書架を5段にして使っても良いだろう。ただ、特注品だけに棚板一枚の値段が高くて、簡単には増やせないとのこと。どうせ本体工事費の中で書架を処理しているはずなのだから、棚板を余計に作ってもらっておけば良かったのに。
 蔵書を増やすためのもう一つの難点は、年間資料費が約300万円(2000年度)と少ないこと。利用頻度にもよるが、年間で蔵書の5分の1を入れ替えるとして7,600冊、平均単価を2,000円とすれば、年間に必要な資料費は1,520万円。現状は理想の5分の1にも及ばない。利用者に飽きられない図書館を目指すのであれば、せめて今の2倍は必要だろう。


一般書架と椅子 書架の横には、ところどころに、こうやって椅子が置かれている。机や椅子などの家具は、ほとんどが「コクヨ」製だった。


新書架 新書用の書架。基本的には他の書架と同じ造りだが、棚板が増えて6段になっているのと、本の後ろ、背板側に幅木を入れて、本が棚板の前の縁できれいに揃うようになっている。


文庫架 こちらは、文庫本用の書架。造りは新書用の書架と同じ。やはり本の後ろに幅木が入って、本の背が棚板の前面にきちんと並ぶようになっている。


ビデオ架 文庫架の隣に置かれたビデオ架。レンタルビデオ店と同様に、箱だけが並べられており、利用者は、箱を持ってカウンターに行く。
 ビデオの貸し出しは行っておらず、館内視聴のみ。ただし、視聴ブースは生涯学習館の2階に設けられており、利用者は職員とともに、いったん図書館の外に出なければならないことになる。なんとも変な作りである。ただでさえ職員が少ないので、トラブルがあると大変らしい。


ソファー 南側の窓際に置かれたブルーのソファー。


ソファー2 こちらは、南西角の窓際のソファー。


テーマ展示架 入り口から見て、一般書コーナーの一番手前の列に置かれたテーマ展示用の書架。
 訪れた日は、「話題の本」のほか、「第124回直木賞・芥川賞」、「草枕文学賞」(受賞作の『下ん浜』の著者、木野和子さんは南郷町の出身とのこと)やパソコン関係の本などが並べられていた。


手書きポップ テーマ展示架を飾る手書きのポップ。新聞の切り抜きも添えられていたりする。
 職員の努力は高く評価できるが、展示の方法も含めてデザイン的なセンスはいま一歩。もっと勉強して欲しい。


話題の本 テーマ展示架の「話題の本」の部分。
 ほとんどの本は貸し出し中で、代わりに並ぶのは、本の箱に表紙と背のコピー(白黒)を貼った代用品。レンタルビデオ店の方式を真似たのではないかと思う。読みたい利用者は、これをカウンターに持って行けば予約できる訳で面白い方法だとは思うが、展示する本の全てにこうした代用品を用意するのは、コストもかかるし手間も大変だろう。
 展示期間と期間中の貸し出しとの兼ね合いをどうするか、難しいところではあるが、ここでは貸し出しを優先させるために、こういう手段を取っている。


平台のおすすめ本 入り口を入ってすぐの所に置かれた平台の上の「おすすめ本」も、大半は表紙をコピーしたものを厚紙に貼って「貸出中」と表示された代用品が並ぶ。
 貸出中が多いと、平台の上にモノトーンが多くなるので、展示としてはあまり美しくはない。

その他

書架サイン1 この図書館は、建物と書架などの家具が一体で設計されておらず、統一された意思が見えない。これを如実に物語るのが、書架の側面に取り付けられた手製のサイン。
 サイン計画も何も無いので、後から、勤務することになった職員がこうして手作りで対応することになる。後からサインだけ業者に発注することも可能だったのだろうが、予算が無かったと見える。折角の特注木製家具も、これでは台無し。


書架サイン2 こちらは、絵本コーナーの児童書架の上に置かれていたサイン。
 大人にはわかるけど、子どもにはどうだろう?。NDCに準拠した排架ではあるが、サインは子ども向けにわかりやすくあっても良い。いくら予算が無いとはいえ、図書館員の側にもセンスが必要。


検索端末 館内に1台だけ置かれた利用者用の検索用端末。タッチパネル式でシステムは三菱製。
 右は入力画面のアップ。写真が小さくてちょっとわかりにくいが、画面の右半分に50音の入力ボタンが表示される。個々のボタンの作りが小さく、タッチパネルの感応域が表示とちょっとずれている所もあって、かなり入力しづらい。試しに使ってみて、何度も入力をやり直す羽目になった。これでは使えない。
 せめて、50音のボタンを画面いっぱいに表示するなどのシステムの変更が必要だろう。三菱も、こんな中途半端な製品を納入してはいけない。


雑誌架 入り口を入ってすぐ右手には、ガラス壁に沿って6列3段の雑誌架が2本並べられている。
 面展示の部分は、上に引き上げると中にバックナンバーが収納されている。全部で36誌分では足りないので、書架の上面にもラックに入って雑誌が並ぶ。


雑誌コーナーソファー 雑誌架の前には、このようにソファーが並べられ、ブラウジングコーナーになっている。


新聞架 雑誌架の隣にある新聞架。新聞用の閲覧台は設けられていないので、上の写真にあるソファーに座って読むことになる。ソファーだと新聞が広げにくいので、見開きで広げられる閲覧台が欲しいところ。
 収納された新聞は、地元紙3紙、一般紙4紙、スポーツ紙1紙の計7紙。過去の新聞の所在は聞かなかったが、開架部分には無かったと思う。


教科書展示 片隅に展示されていた「平成14~16年度小学校用教科書並びに平成14~17年度中学校用教科書」。
 南那珂地区(2市2町)の採択教科書が何かは、上の張り紙に掲示してある。


館内を飾る作品 この図書館では、色紙を使って作られた様々な作品が、館内に飾られているのが目に留まる。右の作品は、利用者用の検索端末の隣に置かれていたもの。聞けば、非常勤職員の手作りで、季節に合わせて月替わりで変更されるらしい。
 これはこれで素晴らしいと思うのだが、作品が目立つのではなく、資料が主役の図書館になって欲しい。
 最後に、いただいた統計資料から、平成12年度の南郷町立図書館のサービス指標を抜き書きする。
(1)貸出密度
 貸出冊数÷人口=52,776冊÷12,041人=4.38冊
(2)町内登録率
 登録者数÷人口=4,139人÷12,041人=34.4%
(3)実質貸出密度
 貸出冊数÷全登録者数=52,776冊÷6,119人=8.62冊
(4)蔵書回転数
 貸出冊数÷蔵書数=59,817冊÷38,203冊=1.57冊
(5)人口一人当たり資料費
 資料購入費÷人口=3,050,000円÷12,041人=253.3円
(6)人口一人当たり年間購入冊数
 年間購入冊数÷人口=3,236冊÷12,041人=0.27冊
(7)職員一人当たり貸出冊数
 貸出冊数÷職員数=59,817冊÷3人=19,939冊
(8)貸出コスト(円)
 図書館費総額÷貸出冊数=8,816,000円÷59,817冊=147.4円
(9)貸出サービス指数
 資料購入費÷購入冊数×貸出冊数÷図書館費総額=3,050千円÷3,236冊×59,817冊÷8,816千円=6.4
(10)住民への還元
 貸出冊数×図書単価-図書館費総額=59,817冊×1,500円-8,816千円=80,909,500円

 本当に少ない職員で、今のところよく頑張っていると言うべきか。でも、資料費の少なさが将来的にじわじわと効いてきそうな気配が回転数にも表れている。資料費の増額と職員の増員によりサービスの質を上げることが今後の課題だろう。

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