洲本市立図書館

訪問日:2001年12月2日(日)

 12/1に大阪市立中央図書館を訪問した夜、Niftyの図書館会議室(FLIBRARY)を通して知り合った関西の図書館関係者3名とメキシコ料理で会食して情報交換。次の日はこのたびの最後、兵庫県淡路島にある洲本市立図書館を訪問することとしました。
 当方の旅程の都合上、訪問が日曜日になってしまうので、お邪魔になってはいけないと思い、事前に洲本市立図書館のWebサイトから情報収集の上、同館のメールアドレス宛に訪問の趣旨と日曜日になってしまうことをお知らせしておきました。
 すると同館からは、「お待ちしております。」との丁寧な返事が届きました。

その1

サモトラケのニケと図書館 大阪梅田の阪急三番街1階にある高速バスターミナルから8時40分発の洲本行き高速バスに乗って2時間、10時40分に洲本高速バスセンターに到着。
 洲本からの帰路は、関西空港まで高速艇で行くことにしていたので、着いたらまず、洲本港のポートターミナルの所在を確認し、そこから徒歩で市立図書館へ。バスセンターから図書館まではすぐ近くなのだが、途中の道が迂回しないと行けないようになっていて、ちょっと大回りになってしまった。それでもゆっくり歩いて10分ほど。
 何故か「サモトラケのニケ」像のある広場を抜けると、前方に煉瓦造りの建物が見えてくる。それがお目当ての洲本市立図書館。


入り口にある看板 図書館の前に到達。入り口の前には、このように石に刻まれた「洲本市立図書館」の文字。1998年に完成。
 この図書館は、明治42年に建設され、昭和61年に操業を終了した旧鐘ヶ渕紡績(カネボウ)洲本工場の第2工場だった建物を、図書館として蘇らせたもの。設計は、鬼頭梓建築設計事務所と佐田祐一建築設計事務所の共同設計になっており、建築工事は、竹中・柴田特別JV。
 敷地面積は、5.056.34㎡、建築面積は2,453.18㎡、延床面積は3,191.11㎡(1階2,408.57㎡、2階774.19㎡)で、事業費(工事費、設計監理費、用地費、事務費)は26億4,100万円(うち地方債19億8,100万円、一般財源6億6,000万円)となっている。
 建築については、鬼頭梓建築設計事務所のWebサイトに、たくさんの写真とともに詳しく紹介されているので、是非見て欲しい。


煉瓦壁前に駐車する自転車 入り口のある煉瓦壁の前には、このようにずらっと自転車が駐輪されている。その駐輪中の自転車の横には、写真右下のように、駐輪場を案内する表示板が置かれている。
 画質が悪いのでちょっとわかりにくいが、ここから右に50m先に駐輪場があるらしい。どうもこのあたりは問題かも。駐輪場が遠くて利用者に不便だから、みんな、入り口近くの壁の前に駐輪するのでは。


駐輪場 そこで、確かめるために表示板に案内された方に歩いて行ってみると、建物の東側に、このような駐輪場が設置されている。雨よけも何もなく、実際に停められていたのは、原付バイク1台に自転車が2台だけ。
 図書館の周囲を歩いてみると、自転車で来たほとんどの利用者は、図書館の入り口の前を通過しないと、この駐輪場には到達できない。これではちょっと不便かも。


南東側から見た外観 南東側から見た図書館の外観。この右手に駐輪場がある。写真の左手が公園で、ずっと奥の方には「ジャスコ洲本店」がある。
 煉瓦壁の奥に見える黄土色の建物の部分が、新しく作られた構造体の一部で、煉瓦壁に向かってトップライトなどが架け渡されている。この下の1階が児童コーナー、2階が会議室になっている。


1階入口 逆光でわかりにくいが、北東側から見た外観。左手奥が駐輪場になっており、車が1台停まっているあたりが職員用の入り口になっている。
 この図書館の周囲には、来館者の駐車場らしき場所は無く、この写真に写っている東側の道路の進入口には車止めのポールが立っていて、そこには右の写真のように「お体のご不自由な方のみ進入出来ます。図書館事務室へご連絡下さい」と書かれている。
 しかし、車でここまで来た障害者が、どうやって図書館事務室に連絡をとるのだろう?。ここにはインターホンも何も用意されていない。


北側の煉瓦壁 図書館の裏側になる北側の煉瓦壁。
 明治期から続くもともとの煉瓦壁を生かすために、アンカーで固定して強度を増している様子がわかる。
 こちら側には、近くに他の建物もなく、人通りはほとんど無い。


中庭の煉瓦の広場 周囲をぐるっと一周して、正面に戻り、煉瓦壁に開けられた入り口をくぐると、そこは煉瓦が敷き詰められた中庭になっている。
 ここには、もともとの建物の解体の際に出た煉瓦、約9万本が敷き詰められていているとのこと。ちょっとした催し物が開催できる広さがある。
 正面に見えるガラス面の奥が一般向けの閲覧室になっており、その右手、写真が切れるあたりに建物への入り口が設けられている。


返却ポスト 煉瓦壁の入り口から中庭に入ってすぐ右手、児童コーナーを望むガラス面に作られた返却ポスト。建物に入る入り口とは少し離れている。


入り口 さて、いよいよ図書館の入り口へ。ガラス張りの風除室で、ガラスの自動ドアを2枚くぐって館内に入る。


BDSがお出迎え 風除室を抜けると、BDS(Book Ditection System: 盗難防止装置)のゲートがお出迎え。
 ここで、子どもと大人の動線が分かれ、入って右手が子ども室、左手に一般閲覧室があり、左手すぐに一般用のサービスカウンターがある。
 正面右手には、2階へ上がる階段、階段の左奥は、公衆電話やトイレのあるスペースになっている。


クリスマスツリー BDSを抜けて、正面の2階に上がる階段の手前に置かれたクリスマス・ツリー。訪問したのが12月2日で、ちょうどクリスマス前だった。白を基調としたなかなか美しい飾り付けがされていた。


ブック・カート クリスマス・ツリーの左隣に並べられたブック・カート。スーパーの買い物用カートのように、利用者は、館内を循環して、これに借り出したい本を入れてカウンターまで運ぶことができる。
 ここの図書館は、一人10冊まで2週間借りることができる。本は重いから、家族分をまとめて借りる時などは便利。話には聞いたことがあるが、実物を見るのは初めて。


トイレの手洗台 クリスマス・ツリーとカートの間を抜けて、まずはトイレをチェック。
 手洗台の鏡の前には、このように椿が生けられていた。小さな子どものための立ち上がりの低い手洗台も別に設けられており、掃除も行き届いて、気配りを感じさせるトイレ。この調子だと、本体の方もなかなか期待が持てそうと心が弾む。


カウンター トイレで用を済ませた後、一般閲覧室のカウンターへ。
 カウンターの背後に大きなディスプレイがあって、お知らせが映し出されているが、これはきっと後付けなんだろうな。折角のカウンターの邪魔をしている感じ。
 このカウンターで職員の方に来訪の意図を告げると、事前にメールしてあったので通りが良く、わざわざ菅芳子館長が出て来られ、まず、館長室に通されて図書館の資料をいただき、少し話を伺う。日曜日で忙しいだろうに恐縮。



受賞した建築関係の賞

 この図書館は、複数の建築関係の賞を受賞している。写真左から、日本図書館協会建築賞、日本建築学会建築選奨BELCA賞(ベストリフォーム部門)の受賞記念楯。
 BELCA賞は、馴染みが無かったので調べてみたら、「適切な維持保全を実施し、または、改修を実施した建築物のうち、特に優良な建築物」に対して、社団法人建築・設備維持保全推進協会(BELCA)より贈られる賞。ロングライフ部門とベストリフォーム部門があるらしい。
 左端の日本図書館協会建築賞は館長室に、残りの2つは一般閲覧室のカウンターに並べられていた。


 いただいた図書館年報(平成12年度)から、サービス指標の数字を転記する。

指 標洲 本兵庫県全 国
登録率43.6%24.8%27.6%
人口一人当たり貸出冊数
(貸出密度)
7.45冊4.07冊4.03冊
登録者一人当たり貸出冊数
(実質貸出密度)
17.1冊16.4冊14.6冊
一日当たり平均貸出冊数1,119.2冊
一日当たり平均貸出人数290人
蔵書一冊当たり年間貸出回数
(蔵書回転率)
2.5回2.4回1.8回
人口一人当たり蔵書冊数
(蔵書密度)
2.92冊1.68冊2.26冊
蔵書中に占める新蔵書の割合
(蔵書新鮮度)
10.5%

 この数字を見ると、この図書館が、単に建築だけの図書館でないことがわかるだろう。
 洲本市の人口は、4万2,000人余り。比較的小さな市だが、図書館の歴史は古く、1916(大正5)年からこの地に図書館がある。兵庫県内でも2番目に古いという。
 現在の図書館ができるに当たっては、1993(平成5)年から「洲本市立図書館ビジョン委員会」(委員10名)が設置されて検討が始まり、1995(平成7)年には図書館準備室が設置されて、市民からアイディアを募集したり、設計をプロポーザル方式で行った上で、住民の代表を含む建設委員会(委員10名)で設計案の検討を行ったりしている。
 市民参加型の図書館づくりが行われた結果できた図書館であり、完成後も、図書館協議会や利用者主体の実行委員会が主催する「図書館市民まつり」、児童サービスや対面朗読などのボランティア活動を通して、市民と図書館が関わり続けている。


閉架書庫 館長さんの案内で、特別に2階の閉架書庫に案内していただいた。閉架書庫の収蔵能力は12万冊。開架が同じく12万冊の収蔵能力で、2001年3月末の蔵書数が12万3,405冊だから、書庫にはまだまだ余裕がある感じ。


視聴覚室 2階の南西角にある視聴覚室。ここも、館長さんにわざわざ開けていただいた。
 落ち着いた感じの色調で、椅子の配置もテーブル一つに2脚とゆとりがある。椅子をひっくり返して確認したら、北欧製(デンマークだったかな)だった。こうした家具のコーディネイトも鬼頭建築設計事務所の手による。
 2階には、この視聴覚室の他に、会議室が2部屋設けられている。


階段の手すり 感心したのは、2階の階段部の手すりのところ。写真左下のように、細く割いた竹を編んで作られた網が張られている。パンチングメタルとかで仕上げることも多いのだろうが、こういう素材の使い方で暖かみのある仕上がりになっている。
 普段はあまり目にしない部分ではあるが、こういう所にまできっちり注意が払われているところに、設計事務所の腕を感じてしまった。

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