d
訪問日:2001年12月1日(土)
11/29~30に京都府の美山町で仕事をした帰りに、関西の図書館を訪問することとし、手始めに図書館建築賞を受賞している大阪市立中央図書館を訪問することとしました。
Niftyの図書館会議室(FLIBRARY)で、この図書館は土日の視察は原則お断りという情報を入手していたので、事前アポなしでの訪問になりました。土曜日で利用者が多いので、もとより案内を頼むつもりもありませんでしたが、写真撮影も厳しいみたいな情報でした。
場所は、地下鉄西長堀駅(千日前線、長堀鶴見緑地線)に直結ということでわかりやすいのですが、事前の情報収集には大阪市立図書館のWebサイトを参考にされると良いでしょう。
その1
宿泊していたホテルを朝9時頃出て、地下鉄を乗り継いで西長堀駅で降り、出口案内に従って改札を出ると、目の前に写真右の表示が立っている。
矢印に従って左に進むと、写真右のような案内表示があり、期待に胸膨らませながらそのまま先へ進む。
地下鉄の出口から出ると、「中央図書館地下入口」の表示のある看板があり、その向こうに開口の大きなガラス窓越しに地下1階の閲覧室が見えて来る。
看板には開館時間(月~木曜は午前9時15分~午後8時30分、土・日は午前9時15分~午後5時)や休館日(金曜日、国民の祝日(文化の日を除くは開館)、毎月末日、年末年始、蔵書点検期間)などが書いてある。
地下鉄出口から図書館入口までのアプローチは吹き抜けになっていて、左手に図書館の閲覧室を見ながら入口のほうへ進む。
晴れた日は良いが、雨が降るとここで傘が必要なので、できれば雨に濡れずに図書館に入れるようにして欲しかった。贅沢と言うものか?。でも、ここまでやるんなら、そこまで考えてくれても良いよね。この日は良い天気だったので、何の問題も無かったが…。
看板、掲示板と並んで、その奥が図書館の地下入口。
掲示板には何も貼られていない。使われていない掲示板は少々寂しい。
早速中へと思ったが、朝食を摂っていなかったので、地下入口の隣にあった喫茶兼レストランに入って、サンドイッチとコーヒーのセットで軽い朝食。
ここでは、コーヒーなどの飲み物の他に定食やうどんなどもあって、食事も摂れる。値段もまあ手頃。図書館の地下エントランス側からも入れるようになっており、昼食もここでいただいた。
朝食が終わって一息ついたが、いきなり中には入らずに、1階に上がって周囲を1周してみることにした。
まずは、全景が撮れる場所を探して前の通り(新なにわ筋)を渡り、図書館の全景をフレームに収める。その写真が、このページの冒頭にあるやつ。
再び通りを渡って1階入口の前に戻り、上を見上げると、こんな具合になかなか面白い構図の写真が撮れる。
この図書館は、地上5階(一部6階)、地下6階で、延床面積は34,533㎡もある巨大な建物。床面積では、宮崎県立図書館の3倍を超える。さすがは政令指定都市の図書館だと思うが、実は大阪市の図書館はここだけではない。大阪市は24の区に分かれているが、各区に一つずつ、つまり、この中央館の他に23の地域館があり、2台の自動車文庫「まちかど号」が巡回するステーションが18の区にある。これらが相互に連携して、大阪市の図書館ができあがっている。
1階入口の前を右手に回ると、建物の横に自転車置き場がある。図書館の案内パンフレットを見ると、駐輪台数は約300台。
自転車置き場の中はこんな具合。土曜日の朝、開館から1時間も経過していないのに、こんなに自転車が停めてある。
自転車は、外側の路上にもこのとおり。当初の計画よりも自転車で来館する利用者が多いのか、それとも放置自転車なのか。
一応、この路上は「自転車放置禁止」の表示があるが、その表示のところだけよけて置いたりしている。自転車置き場では全部は入らなそうなので仕方が無いのかもしれないが、さすがに、写真の左手前にある消火栓の前に停めているのはまずかろう。利用者も最低限のマナーは守らねば。
裏側に回ると、駐車場の案内が。地下2階が有料駐車場になっており、約100台が駐車可能。
この近くに、自動車文庫の駐車場や職員専用入口などもあった。
周囲を1周して、再び地下入口の前に戻る。
自動ドアの向こうが風除室になっていて、もう1枚自動ドアがある。その奥にBDSのゲートがあり、ゲートの横には「総合案内」の机があって、女性の職員が座っていた。「総合案内」の机がある図書館は珍しいが、BDSのゲートがカウンターから遠いので、ゲートのアラームが鳴った時に素早く対応できるように人が必要なのだろう。
珍しいので写真を撮らせてもらおうと思ったが、写真はお断りらしく撮らせてもらえなかった。
地下入口の左手にある返却ポスト。
もちろん、1階の正面入口の右手にも同様に作り付けの返却ポストがある。
地下入口を入って、風除室の左手にあるロッカールーム。コインロッカーが50個並ぶ。規模の割に少ない気もするが、荷物の持ち込みは自由なので、これで良いのかも。
館内には、このまま地下1階からも入れるが、ここはやっぱり1階の正面玄関から入ることにした。
1階の正面入口の自動ドアを抜け、更に風除室の自動ドアをもう一枚くぐると、目の前にはこのような空間が広がる。
写真の右にちらりと見えるのが、ライブラリー・ショップ。
この写真ではちょっとわかりにくいが、床にある黄色の点字ブロックが左に直角に折れる辺りにBDSゲートがあり、地下入口と同様にその前に総合受付のデスクがあって女性職員が座っている。ここにたまたま警備員の人もいて職員と話をしていたので、写真を撮っても良いか尋ねたところ、自分達ではよくわからないので、カウンターで聞いて欲しいとの返事。総合受付の写真も駄目なのかと聞いたら、何か都合が悪いのか、重ねてカウンターで尋ねて欲しいと言われ、嫌がるものを無理やり撮るのもはばかられるので断念。
この後、1階のカウンターで職員の方に来訪の目的を告げて、家具を中心に撮影をしても良いかどうか尋ねたところ、「利用者が絶対に写らないことを確約していただければ構いません」と言われ、事前のリサーチどおりと思いつつも、そのきつめの口調に気の弱い私は少々たじろぐ。「図書館雑誌」に図書館の写真を毎号掲載している写真家の漆原宏氏のようにメジャーにならないと駄目なのかな。写真の中身なんて図書館側が決めることでは無いと思うけど。
それにしても、土曜日だったせいもあるのか、この図書館は利用者が多くて、「利用者が絶対に写らない」写真なんてなかなか撮れない。でも、そういう条件で撮影が許可されたのであれば、できる限り守ってみようと思った。そういう訳で、カウンター周りとか、読書席とか、撮りたくても撮れなかった写真も多い。まぁ、中には人物が写ってしまった写真もあるが、これだけ小さくして画質も落としていれば人物の特定もできないし、そこはご容赦あれ。
1階のエントランスホールから左上を見上げると、このような感じで3階の天井部分まで吹き抜けになっており、1階から3階までを吹き抜けに面した階段がつなぐ。一番上の天井部には、大きな円錐形のモニュメントが下がって来ている。
上の写真の階段の途中にある踊り場から入口付近を見下ろすとこんな感じ。
公衆電話の設置されたコーナーや喫煙コーナーなどが見える。
美術館のミュージアムショップはよく見かけるようになったが、日本の公共図書館では珍しいライブラリーショップ。
文房具や、絵本などの書籍のほか、障害者の働く作業所で作られた手作りの製品などが販売されていた。ショップの運営にも障害のある方が参加されているようだった。
その2
館内の様子を説明する前に、この図書館の概要について少し触れておく。
現在の大阪市の図書館計画については、1987(昭和62)年12月に設立された大阪市図書館基本構想委員会(委員長:元木健大阪大学人間科学部教授)が、1989(平成元)年9月に市教育長に出した答申が基本になっている。
この中で、大阪市立図書館システムの基本理念として、
- 生涯学習の基本理念としての図書館
- 高度情報化社会における図書館
- 国際化社会における図書館
- 文化活動展開の場としての図書館
- 広域圏ニーズにも応える図書館
が掲げられ、生涯学習の基盤施設として新しい時代の市民ニーズに応えるために中央図書館の建替えの必要性が提言されている。
これを受けて、1990(平成2)年6月に新大阪市立中央図書館基本計画策定委員会(委員長:足立孝大阪大学名誉教授)が設立され、11月に「新中央図書館基本計画」がまとめられている。ここでは、中央図書館の機能として、
- 大阪市立図書館システムの中枢の役割
- ぬくもりあるヒューマンライブラリーとしての役割
- 大阪文化の拠点としての役割
- 総合的な機能を十分に備えた図書館としての役割
- 図書館相互協力の窓口としての役割
が掲げられている。
以上のコンセプトに基づいて、1992(平成4)年11月に着工、1996(平成8)年7月に開館した。基本設計は石本建築事務所+ロゴス総合設計(島雄康一郎)、施工は戸田・佐藤・錢高特定建設工事共同企業体である。
こうしてできた新中央図書館は、鉄筋コンクリート造、地上5階(一部6階)地下6階の建物で、延床面積は34,532㎡。蔵書数は最大で330万冊、開館時の蔵書は85万冊。開架は地下1階から地上3階までで約30万冊、閉架書庫は地下3階から地下6階までで約300万冊、閲覧席だけでも1,150席という巨大なものになっている。
開館までの経緯は、『大阪市立中央図書館の建設について -新しい情報・文化の拠点をめざして-』(伏谷勝博著 「大阪市公文書館研究紀要」第9号抜刷 H9.3.31 大阪市立公文書館発行)に詳しい。
利用者が主に立ち入ることのできるフロアの平面図を、いただいたパンフレットから転載してみた。
この図では、右側が北、上側が西になる。
地下1階には、文学、レクリエーション、芸術関係の一般書、障害者サービスコーナー、AVコーナー、ヤングコーナーがある。
1階には、児童コーナーのほか、言語関係の一般書、外国語資料、ポピュラー雑誌・新聞、教科書センターなどが置かれている。
2階には、社会科学、自然科学、技術・産業分野の一般書が置かれ、読書席、談話室がある。
3階は、この図書館の特色の一つともなっている大阪コーナーのほか、地図、調査研究コーナーがあり、研究個室も4室設けられている。
このほか、平面図には無いが、4階は事務室及び作業室、5階は約300人を収容できる大会議室のほか2つの会議室で、利用者は、5階のフロアには基本的にエレベータでしか上れないようになっており、行事の無い時はエレベータは5階には止まらないようになっていた。
とにかく、大きく、広く、何でもある。利用者のわがままを全部満たしてくれる図書館かもしれない。
何しろ大きいので、なかなか全容をつかみきれない。
この写真は、地下1階の閲覧室の様子を、エントランスホールの吹き抜けに面した階段の途中から見たところ。中書架がずらっと奥のほうまで並んでいる。左手にサービスカウンターがあり、その前に置かれた返却本を載せるブックトラックが写真左手に写っている。
同じく地下1階の閲覧室を、西側にある1階へ通じる階段の踊り場から撮影した様子。
階段の下が閲覧用のスペースになっていて、曲線でデザインされた大小のテーブルが配されている。地下で少々暗いので、大きなテーブルには照明用のスタンドが乗っている。
地下1階の西側壁面に設置された高書架。
写真ではわかりにくいが、書架の最上部に蛍光灯の照明が付いている。
2階に東側あるNDC0類から3類くらいまでの人文・社会科学系の資料を収めた書架。
ここでは、7段の高書架を窓側に配置し、5段の中書架を内側に配置している。
偶然にも空の書架があったので撮影してみた。これで閲覧室の書架の構造がよくわかる。
垂直方向の側板と上部の天板は木製で、水平方向の棚板はオフホワイトのスチール製。背板は、高さ4cmほどしかなく、反対側を見通すことができる。
用途に応じて、写真のように面展示できる棚板などを組み合わせることも可能。
高さの違いはあるが、一般図書の書架は、ほとんどこれで統一されていた。
書架の配置は、書架の中心間で180cm、書架の幅が40cmあるので、書架と書架の間の通路部分で140cmというのが基本になっている。車椅子での利用も考慮して、ゆとりのある配置になっている。
現代文学の書架では、このように書架の付属品と思われるクリーム色のプラスチック板で著者表示が行われている。
中央に電気スタンドのついた、読書用の丸テーブル。地下1階のフロアの一角に置かれていた。地下ゆえの光量不足を、スタンドで補うということだろう。
周囲には椅子が6脚。しかし、近接していると利用者も他人を意識して使いにくいので、4脚くらいで良いのではないかと思う。
1階のポピュラー雑誌のコーナーにある雑誌架。木と透明アクリルの組み合わせで、前面扉が最新号を表紙を見せて面展示できるようになっており、前面扉を持ち上げるように開けると、奥にバックナンバーが収納されている。
各ブロックの幅は21cmほど。4段でずらっと並ぶ姿はそれなりに壮観でもある。
1階の北西奥壁面には、このようなタイプの雑誌架もあった。やはり木と透明アクリルの組み合わせだが、斜め方向に差して置けるようになっているので、表紙を見せつつ収納の数を稼ぐことができる。バックナンバーの利用も多い雑誌であれば有効かもしれない。
こちらは、2階にある雑誌コーナー。何しろ、統計を見ると購入される雑誌の種類は1,800以上という膨大な数なので、1ヶ所では収まりきらない。1階に利用の多いポピュラーな雑誌を集め、この2階には、どちらかというと専門的な雑誌を置いている。
1階と違って、ここでは前面扉での最新号の展示はされていない。おかげで、雑誌架の構造とバックナンバーの収納状況がよくわかる。
しかし、その雑誌架を横から見ると、このようにどうにも無機質で冷たい印象を受けてしまう。
中小の市町村立図書館にはとても似合わない家具である。これだけの規模の図書館だからこれで許されるのかもしれないが、個人的にはあまり好きになれない。
1階のポピュラー雑誌の近くにある、最新号の新聞を置く新聞架。雑誌架と同様に、透明アクリルを多用した作りになっている。
ここは新聞の数も多く、いわゆる全国紙の他に、各都道府県の地方紙も殆ど揃っていた。わが郷土の新聞「宮崎日日新聞」を見つけて、うれしくて撮影。全国紙の方は利用されていて、撮ろうにも取れなかったのだが。
地方紙は当日のものではなくて、2日前の木曜日のものであった。
新聞のバックナンバーは、3階の調査研究コーナーの奥にこうして保管されている。一応、宮崎日日新聞の棚(右から2列目)を撮影したが、この写真ではわからない。
棚1段で1か月分。段数は8段しか無いようなので、8か月分か?。
同じ新聞でも、専門紙、業界紙は2階の雑誌コーナーの前にあった。
この新聞架は何故か前面に透明アクリルの扉付き。雑誌架と統一したということなのかもしれないが、扉が必要なのかどうかは疑問。
リーフレットなど薄くて散逸しやすい資料は、こうしてファイルされた上で書架に収められる。
書架は、6つ上の写真の雑誌架と同じタイプ。
できれば、奥に見える読書席も撮影したかったが、利用者がたくさんいて、カウンターで約束させられた「利用者の写らない写真」を撮ることができないため果たせず。残念。
その3
この図書館では、サービスカウンターは各フロアに設けられ、貸出・返却は地下1階と1階にあるカウンターだけで行われる。
残念ながら撮影はできなかったが、1階のカウンターには1~9番の窓口があり、訪問時には5人ほどの職員が座っていた。カウンター前には、空港のカウンターなどで見るような幅広テープを使ったガイドロープで利用者を誘導するようになっており、少々驚かされた。決して見栄えの良いものではないが、こうしないとスムーズに利用者がさばけないほど貸出しが集中するのであろう。ここにずらっと利用者が並ぶのかと思うと、少々ぞっとするものがある。
館内にあった『日本の図書館 2000』よりこの図書館のデータを拾うと、2000(平成12)年4月1日現在で、蔵書数が120万7,000冊(うち児童書17万2,000冊)、雑誌購入種類数1,812点、個人貸出登録者12万8,427人(うち児童1万5,306人)、個人貸出冊数331万9,000冊(うち児童書31万4,000冊)、予約点数16万6,330点となっている。
何よりも貸出冊数がすごい。年間で331万冊を超えるということは、年間の開館日数が280日ほどなので、1日平均で軽く1万冊を超える貸出しがあるということになる。後日聞いた話では、多い日は2万冊を超えることもあるという。
貸出しをサービスの中心に置いてきた1970年代以降の市町村立図書館の究極の姿がここにある。しかし、貸出しが2万冊を超えるような日は、朝から晩まで休み無くひたすら貸出し作業を行う窓口が複数あるということで、職員は、それこそ機械のように作業をこなして行かなければならないだろう。そしてこのことが、この図書館の最大の弱点ともなっているのではないかと、半日観察してみて感じた。
例えば左の写真、文庫架を上から見下ろしたところなのだが、何かお気づきだろうか。
よく見ると、本の背と棚板の前縁までの距離が、棚によって違うことがわかる。この図書館では、図書を書架に配架する際は背板まで押し込むことを基本にしている。となると、背板までの奥行きが異なる棚板が、この文庫架では使われていることになる。意図的にこうしているとは思えないので、開館以来このままなのだろう。
書架を横から見れば、棚によって背の位置が違うので一目瞭然なのだが、職員が気付いていないのか、気付いても直す暇が無いのか。
右の写真は、利用の多い文学コーナーの一角にある書架。
最下段に、書架につけるブックエンドが乱雑に詰め込まれている。整理途中の書庫の一角ならともかく、閲覧室の書架、しかも最も利用者の目に留まりやすい文学のコーナーでこのような光景は見たくない。
通常なら、返却本の配架などで職員が巡回していれば、気付いて片付けそうなものだが、状態を見ると、これが日常化している様子もある。
今度は、外国語資料のコーナーに置かれた雑誌架。
腰の弱い紙が使われている雑誌が多いせいもあるかもしれないが、重みでだらしなく曲がってしまった雑誌がやたらと目に付く。
これは、雑誌架自体に構造上の問題があるとも考えられるが、これが常態化しているのであれば、資料の傷みにもつながることなので、もう少し工夫があっても良さそうなものである。
この他にも、書架の乱れ、排架ミスなど気になる個所がいくつかあった。
訪問した日、カウンター以外の場所では職員の姿をあまり見かけなかった。返却された資料も、カウンター前のブックトラックに載せられる以外に、実際の書架に排架される姿を見ることはなかった。短い時間であり、あちこちと動いて見て回っていたので、その辺は割り引いて考える必要があるが、圧倒的な数の利用の前に、職員の数が足りていないのではないかと思う。そのせいで、書架に手を入れる暇が無いのではなかろうか。
この巨大図書館を支える職員は、95人の専任職員(うち司書67人)。この他に非常勤・臨時職員が32.6人いる(『日本の図書館2000』より)。数字だけ見ると多いように思えるが、実際の現場ではどうなんだろう。
書架と向き合ってこそ、職員はその図書館のことや利用者の動向がわかり、それがサービスに反映される。しかし、この図書館では、カウンターに立つ職員が、書架と向き合う作業が十分にできていない印象を受ける。来訪を告げたカウンターで感じた、なんとなくよそよそしい態度は、忙しさの裏返し、余裕の無さを悟られまいとする態度でなかったのか、そんなことをついつい感じてしまう。
忙しい職員に代わって、資料を探す手助けとなるのが、OMLIS(Osaka Municipal Library Information System)と呼ばれるコンピュータシステム。
右のタッチパネル式の端末と左のキーボード付きの多機能OMLIS端末とがあり、主に右のタッチパネル式の端末が各フロアのあちこちに置かれている。どちらの端末も、資料の検索や図書館からのお知らせを見たりすることができる。両方とも実際に操作してみたが、キーボード付きの端末に比べると、タッチパネル式の端末は表示がやや遅い。
資料を検索して、それが書庫の中にある場合、閲覧申し込みをすると、右のような「書庫資料申込番号表」が、買い物をした時のレシートのようにプリンタから打ち出されて出てくる。
書かれている番号は、フロアと受付順の連番の組み合わせではないかと思われ、この紙だけで資料を特定することはできない。これをカウンターに出すと、カウンターの職員がこの番号を入力して目指す資料を確認し、書庫から出してきてくれるらしい。実際には、そこまでやらなかったのでわからないが…。
このほか、電話の音声応答サービスで、プッシュホンから返却期限の延長や予約した資料の取り置きの確認ができたり、インターネット経由で外部から資料の検索ができたりと、利用者サイドから見るといろいろと便利になっている。
地下1階にある障害者サービスコーナー。
主に視覚、聴覚に障害がある人のための資料や機器類が置かれている。
壁際の5段の高書架に並んでいるのは、点字図書。
ボランティアなどの手によって点訳された資料が、ファイルに収められてかなりの数並んでいた。
障害者サービスコーナーの閲覧席にあったパソコン。
キーボードの手前に写っているのは、点字ディスプレイと呼ばれる装置。CRT画面に表示された文字が、点字がとなって表示される。このパソコンで、音声出力(画面の読み上げ)も可能。
こちらは、録音図書の置かれた書架。
見えている面が録音図書で、裏側には大活字本が置かれている。
写真の左手には、対面朗読室が3つあり、書架の前の床に誘導路が見えるが、点字ブロックではないので、専用白杖と一体となった磁気誘導システムではないかと思われる。
コーナーに置いてあった机の上の表示。
車いす専用とのことで、高さが調整できる。車いす用の机は、ここだけではなくて各フロアに複数配置されているらしい。。
階段を上って3階に行くと、すぐ前に地図のコーナーがある。
都市地図、地形図、住宅地図、外国の地図、大阪の地図などなど、様々な地図が集められている。
1枚ものの大判の地図は、右の写真のように1枚ずつプラスチックフィルムにはさんで、吊り下げるように保存されている。
左の写真は、同じく地図コーナーに置かれていた地図架。
国土地理院発行の5万分の1や1万分の1の地図などのように1枚ものの地図が、それぞれの棚に収められ、地図架の上部は書見台として使えるように斜めに角度がつけてある。
地図コーナーの奥には、大阪関係の資料を集めた「大阪資料」のコーナーがある。普通なら「郷土資料」と言うところだが、ここではあえて「大阪資料」。
コーナーの奥は、仕切られていて開架書庫になっており、入口の上部には右の写真のような木製のサインが出ている。入口には特にドアも無く出入りは自由。
開架書庫の内部は左の写真のような感じ。一般閲覧室と同じ高書架が並び、大阪に関する資料が多数排架されている。
この開架書庫の外にも中書架があって、大阪関連の資料が置かれている。『大阪市立中央図書館の建設について -新しい情報・文化の拠点をめざして-』(伏谷勝博著 「大阪市公文書館研究紀要」第9号抜刷 H9.3.31 大阪市立公文書館発行)は、ここで見つけた。
大阪資料のコーナーの東側には、「研究個室」と名づけられたブースが4つ並んでいる。
右の写真のように、部屋ごとに木製の扉がついており、内部は白い壁。壁の高さはドアの上までで、天井付近は開いている。
この個室を利用するには、カウンターで申し込みが必要となる。何か要件があるのかは確認しなかった。
ドアのガラス越しに中を覗くと、内部は左の写真のように、電気スタンドの付いた作り付けの木製の机と椅子があるだけ。資料をたくさん広げて調査・研究するには良さそう。
その4
1階の南東側にある「子どもの本コーナー」。奥に見えている窓が東面になる。午前中なのでかなり明るい。
この写真の左手方向がカウンター、その奥に入口がある。
上の写真で、アーチ型の屋根がかかっているところに近づいてみると、このように大型の木製家具で、周囲が紙芝居架になっている。
紙芝居は、ひとつずつビニール製のケースに入っている。
その内側は、このように四隅がベンチ仕立てになっていて、丸い窓が開いている。
この上に屋根が乗っているのだが、どうにも使い勝手が悪そう。子ども達はここをどのように使うのだろう。
一番上の写真でも手前側に写っているが、紙芝居架の近くには、床面から10cmほど上がっている半円形のフローリングのスペースがあり、その周囲の円弧の部分には、このように3段の小さい絵本用の絵本架が置かれている。天板の上は、面展示ができるように山型に作られている。
その半円形に置かれた絵本架の隣には、上段を面展示、下2段を収納架にした3段の絵本架が直線状に配置されている。
絵本架の上のガラス窓の奥のスペースは、「児童図書研究資料」のコーナーで、子どもの文化を研究するための資料を中心に排架されている。
上の絵本架を反対方向から見たところ。
写真の中央あたり、下2段も面展示されていて、棚板を変えればこのようにも使える絵本架であることがわかる。
上段の面展示の部分のバックは白色のアクリル板。この部分も木製で良かったのではないかと思う。
大型絵本を面展示するのに使われていた絵本架。
横に渡してある桟が幅広でうるさい。せっかくの表紙を隠してしまって、面展示の効果が半減している。既製品だろうが、もう少し気を配った作りであってほしい。ひょっとすると、本来の用途とは違う使い方なのだろうか?。
児童書架と、その前にゆるやかな曲線状に配置された細長いテーブルと椅子。
一般書の圧倒的なボリュームに比べると、児童書の方はそれほどでもない。児童書は、やはり利用者の身近な地域館に分散して置かれているということだろう。
上の写真から、もう少し書架の方に近づいたところ。児童書架には、4段の木製中書架が使われている。
児童書架のアップ。
一般書架では、棚板はスチールが使われていたが、児童書架では木製になっている。
児童書架の側面のサイン。
ベージュの地に黒の文字で、割と大きく表示されている。
同じ書架の天板の上に出されたサイン。
子ども用の新聞が置かれた新聞架と、その隣にある机と椅子。
子ども用の雑誌もこのとおり、ちゃんと面展示できる雑誌架に置かれている。
子ども用の新聞や雑誌は、他の市町村立図書館と比べると充実しているのではないかと思われる。
緑の三角の下が、おはなしのへやの入口。黄色の三角の下は、子ども用のトイレの入口になっている。
おはなしのへやの入口。
この表示は、大人の目線の高さにあり、この部屋を利用する子どもにはたぶん見えない。
子どもの本コーナーの端、南東の角に置かれた小さな丸テーブルと椅子。椅子は、座面が赤のものと青のものの2種類。
窓の下は、地下鉄の駅につながる通路。
何しろ、本当に巨大な図書館で、朝9時過ぎから昼食をはさんで15時近くまで館内をうろうろしていたのだが、見切れなかった部分が多い。最後は疲れてしまって、集中力を欠いてしまった。
最初は、日本図書館協会の建築賞を受賞しているということで探訪に行ったのだが、建築として中小の市町村立図書館の参考になるものがあったかと言うとそうでもない。そもそも規模が大きすぎて、県立図書館でも太刀打ちできないところが多い。家具などにしも、他に優秀な図書館はたくさんある。逆に、ここが失敗でしたと教えてくれる人が案内してくれるのであれば、参考になるところはたくさんあるかもしれない。
しかし、公共図書館として考えられるサービスが、とにかく何でも詰まった図書館であることは間違いない。「鬼子」という言葉があるが、まさに70年代以降続いた貸し出しを中心とする公共図書館サービスの鬼子のような図書館かもしれない。利用者が増え続けているのも理解できる。
唯一の気がかりは、私が見た限り、どのカウンターにも笑いが無かったこと。どうにも職員が楽しそうでないように感じた。人にばっかり向き合っていると疲れるから、資料にも向き合う時間が欲しい。それが許される図書館であれば素晴らしいだろう。