ある投書

 本日付け宮崎日日新聞の読者投書欄「声」に、宮崎市の主婦、武石清美さん(33)の下記のような投書が掲載された。

 図書館が大好きだ。いろいろな本との出会いがある。以前、県立図書館では家族の利用券で、自由に何冊でも借りることができた。今は個人情報保護法で、夫や中学生以上の子供のカードも委任状(しかも1年ごとの更新)がないと使うことができない。
 先日、どうも納得がいかないので苦情を言った。受付の女性たちは、個人情報保護法、公共の施設。前年から実施されている、ホームページ(HP)に掲示してある(我が家にパソコンはない)、と繰り返すだけだった。そこに、県民に不便さを強いているという感覚はないのだろうか。
 会話はかみあわなかった。うるさいおばさんと思われたのだろうな、という嫌な気持ちだけ残った。もう少し心の通った、個人情報保護法のもと、なぜ家族間でさえ、本を借りるだけなのに委任状が必要なのかという説明が聞きたかった。公共の施設では、県民が心地よく利用できるよう公僕精神を分かりやすく掲示してほしい。

 考えさせられる所の多い投書である。いくつかの問題が絡み合って、投書に至った状況を作り出しているようだ。

 そもそも委任状が必要なのかどうかという問題はとりあえず棚上げにしておいて、自分が現場にいたら、どのように答えたかを考えてみた。
 たぶん、図書館の自由に関する宣言第3項「図書館は利用者の秘密を守る」を前提にして説明するのだろうな。「宣言」は、個人情報保護法ができる遙か以前から図書館に存在しており、たとえ夫婦の間であっても、利用者としての個人の情報を守る責務が図書館にあるのだから、利用(特に貸出し)の前提である利用カードの管理については、利用者の側で責任を持って行ってもらう必要があると説明するのかな。個人情報保護法は、「更に最近、個人情報保護法ができて…」と補足的に使う程度でいい。
 例えば(例えが悪いかもしれないけど)、夫のカードを使って妻が夫には秘密で離婚関係の本を借りていて、何らかの原因で延滞となった時に、図書館は夫に督促するわけだが、そうなると図書館が妻の秘密を守れない。
 それぞれの利用者の自由を尊重し、図書館が利用者の秘密を守るためにも、各個人に付与された利用カードは、各個人に帰属させる必要があるというのが大原則だろう。
 こんな説明で、果たして納得いただけるものなのかどうか。

 投書には、説明者が「受付の女性たち」とあるので、正職員ではなく、専門的知識のあまり無い臨時職員だった可能性は高い(県立図書館の場合、正職員でも司書である確率はかなり低いが)。
 司書としてそれなりに訓練されていれば、この利用者に対して、もう少しうまく説明できていたのではないかと思う。
 また、以前は委任状など必要なかったはずだから、運用が変わって、その理由や必要性などが窓口を受け持つ職員にきちんと伝えられていなかったのではないかと推察できる。
 この件は、図書館の側に説明責任があるが、説明の準備がきちんとなされていれば、利用者の不満は買っても、投書にまでは至らなかったのではないか。

 利用者の側にも問題なしとは言わない。以前は家族の利用券で「自由に何冊でも借りることができた」とあるが、県立図書館の貸出しは、1人5点までで、期間は2週間以内と決まっているから、自由に何冊でもという訳ではなかったはず。
 本来、全ての利用者に平等であるべき利用の権利が、普段は図書館を利用しない家族がいるというだけで、個人の既得権のように主張されるのはどうだろう。ちょっとした驕りが感じられなくもない。

 図書館の利用環境にも問題があると思う。この投稿者は、県立図書館をメインに利用しているようだが、本来は宮崎市民へのサービスは宮崎市立図書館が受け持つべきだ。察するに、投稿者の身近に、気軽に利用できる市立図書館のサービスが無いのだろう。
 市立図書館も利用できて、しかも貸出点数が10点までとかだったら、家族のカードを日常的に使う必要もないだろう。
 県内では、市町村立図書館のサービス密度が薄く、本来は市町村立図書館をバックアップするのが本業のはずの県立図書館が、利用者サービスの最前線に立たざるを得ないことも、根元的な問題としてある。

 そんなこんなを深く考えさせられた投書であった。

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