TSUTAYA図書館について考えてみる

 本日付け日本経済新聞地域総合面に、「TSUTAYA図書館、佐賀に 民間委託 さらに進化」と題する記事掲載。

 7月18日の武雄市臨時市議会で、「武雄市図書館・歴史資料館」の図書館部分の管理・運営を委託する指定管理者にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を選定し、来年4月から5年間、計5億5,000万円で契約を結ぶことが議決(佐賀新聞情報では、16対8の賛成多数)されたとのこと。
 武雄市の樋渡市長は、「年間1億4,500万円かかっている運営費を10%削減する」と宣言していたので、その公約は果たされたようだ。

 この問題、図書館の利用カードをCCCが発行する「Tカード」と統一して、利用者にTポイントを付与するという構想に対して、利用情報がCCC側に渡ることへの懸念が提示されるなど全国から注目を集め、日本図書館協会が2012年5月28日付けで、「武雄市の新・図書館構想について」と題する意見書を出すという、ちょっと異例とも言える事態になっていたが、TSUTAYA図書館がいよいよ現実のものとなることになった訳だ。

 記事によれば、樋渡市長とCCC側が基本合意していた業務提携の概要は、コスト削減の他に

  1. 休館日をなくし、開館時間を延長する
  2. 開架式の蔵書を増やし、CDやDVDも充実させる
  3. 雑誌や文具を販売し、カフェを併設する
  4. 図書館利用カードの代わりにCCCのポイントカード「Tカード」を導入し、来館や貸し出しでポイントを付与する

という内容。
 これに対し、市議会での議論では、開館時間の延長やコスト削減を歓迎する市議がいる一方、図書館司書らの待遇悪化を心配する声や、複数の企業が個人情報を共有するTカードについて懸念し反対する市議もいたことから、樋渡市長は

  1. 従来の図書カードはなくさずTカードと併用する
  2. CCCへの情報提供を貸出冊数などに限定し個人名や書籍名は公表しない

との対応策を市議会で説明、武雄市個人情報保護審議会もTカードへの情報提供を「問題なし」としたとのこと。
 武雄市では今後、1,000人規模の市民アンケートを実施して機能充実に生かすとのことだが、市民の期待と不安は半々だろう。

 司書の問題について樋渡市長は、「新図書館で働きたいという問い合わせが全国の司書から届いている。民間の知恵で作業の合理化が進めば司書本来の仕事に取り組める」と言っているらしいが、果たしてそうなのだろうか?。
 そもそも、開館時間の延長と休館日を無くすという取り組みは、間違いなくコスト上昇要因になる。週単位で考えてみても、8時間×6日=48時間という枡目が10時間×7日=70時間と1.5倍近い枡目になる訳で、ここに全て人を配置しつつ、運営費のかなりの部分を占める人件費コストを抑制するとなると、賃金単価を抑えるか、時間当たりの配置要員を薄める(減らす)、或いはその両方しか手はなくなる。
 案の定、前述の佐賀新聞の記事では、自動貸出機の導入などにより省力化して、運営人員の中で司書の人員は現行15人が9人になるらしく、司書は大幅に削減されている。1人当たり週40時間という法に定められた労働時間を守りつつ、1日10時間の開館時間の全てに司書を配置しようとすれば、少ない時間帯で2~3人、多い時間帯で5~7人の司書で業務を回すことになるはずだ。この状態で、司書が従来以上に「司書本来の仕事に取り組める」とはとても思えない。
頭数だけで言えば、低賃金のパート職員(かつ有資格)を増やしたり、ボランティア(できれば有資格)と称して無償で配架や書架整理をさせる仕組みを導入したりする「民間の知恵」も考えられなくもないが、それで果たしてサービスのレベルが維持できるのかだ。
 まあ、大多数の利用者にとっては、書架を自由に眺めて気に入った本や雑誌を読んだり借り出したりすることが殆どだろうから、司書の専門的な知識や技能を必要とするような図書館の使い方は希だろうが、優れた司書がいる図書館とそうでない図書館では、棚ひとつからして違って見えるものだ。
 それは優れた書店員のいる本屋でもそうなのだが、選書も含めてきちんと手が入っている棚かそうでないかは、利用者の快適さに少なからず影響を与えるものだと思う。
 「民間の知恵」が生かせるとすれば、書店等で様々な経験を積んでスキルを磨いた人材を図書館の運営に派遣して他の職員の研修など人材育成に取り組めることと、管理や運営のためのツールの提供の部分だろうか。

 これまでの武雄市立図書館を全く知らないし、これからも利用することはないだろうと思うので、CCCへの委託によって実際にどう変わるのかがわからないが、利用する市民にとっても、その場で働く者にとっても、誇らしく快適な図書館になることを願うのみである。

 この記事では「公の施設」の指定管理者制度が始まって今年で10年目であることも伝えていて、2009年度現在で導入施設は全国で7万を超えるが、運営に行き詰まって自治体の直営に戻す例(ex:静岡県藤枝市の郷土博物館など)や、資料の収集や研究と広報や施設管理を自治体と民間で分担する例(ex:島根県立美術館、山口県立美術館など)があることも記されている。
 これまで指定管理者制度について言い尽くされた議論ではあるが、民間に委託さえすれば全てがうまく行くということではなくて、要は、委託する側の自治体が、事前にどれくらい委託内容を精査できて、受託先の仕事ぶりについて利用者とともにきちんと評価できるかどうかに係っているのではないだろうか。

 それにしても図書館の指定管理、図書館流通センターを子会社に持つ丸善CHIホールディングスが全国で156館で指定管理者になっており、12年1月期の図書館関連事業の営業利益が前期比31%増の10億円という記述を読むと、すっかりビジネスとして定着しているという印象を受ける。
 確かに、小さい市町村で少ない人数で直営するよりも、大規模に人材を回せる企業が請け負う方が、職員のスキルも上がるよなと思ったりもするしね。

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