TSUTAYA(CCC)への運営委託で話題の佐賀県武雄市の市立図書館に、「スターバックス」が公共図書館には初出店するという同市からの発表が8月14日に記事(参照:カレントアウェアネス・ポータルのまとめ)になると、
「樋渡市長すげぇー」
とか
「武雄市が羨ましい」
とかいうつぶやきがTwitterやFacebookで流れ、「#図書館カフェ」というハッシュタグができたりしていて、世間の関心は結構高いということが窺い知れる。
でも、カフェ(喫茶店)を併設している公共図書館は何も武雄市立が初めてという訳ではないから、そんなに騒ぐことじゃないよね~と考えたのは私だけではないらしく、Googleマップを使った「カフェのある図書館マップ」なんてのも早速作られたりしている。
有名どころでは、千代田区立日比谷図書文化館1階の「Library Shop & Cafe Hibiya」と、地下1階の「Library Dining Hibiya」で、いずれも図書フロアの書籍がごく一部を除いてすべて持ち込み可能(詳しくは、のTime with Booksというサイトの瀬戸理恵子さんの記事を参照)。何とも素敵な空間ではないか。
ちなみにこの日比谷図書館は、(株)小学館集英社プロダクションを代表者とする日比谷ルネッサンスグループが指定管理者(現指定期間は平成28年度末まで)になっている。
その昔、宮崎県立図書館(第3代、1961~1987年)が現在の宮崎県庁外来駐車場の場所にあった頃、建物の1階に「翠」という喫茶店が併設されていた。
私が小学3年の時は、毎週土曜に学校帰りに県立図書館に寄って、「翠」でお昼に定食を食べるのが日常だった。
20年以上前から、カフェを併設する図書館は存在していたのだ。
ただ、閲覧室とははっきり分けられていて、貸し出しの済んでいない資料を持ち込むことはできなかった。逆に、閲覧室に食べ物や飲み物を持ち込むことも禁止されていた。
図書館は資料の保存もその機能の一つであり、書店と違って代替の利かない資料、それを汚損されたらその後の利用者が大変に困ってしまう資料が多い。
なので、飲食物による汚損リスクを極力減らすために、資料と飲食物の動線が重ならないようにしていた訳だ。
しかしながら最近の流行は、カフェを図書館の内側に取り込むことにある。飲みながら、食べながら、本や雑誌を読みたいという人間の欲望を叶えようとする方向に進んでいる。
汚損の問題については、ある程度代替の利く資料については目をつぶり、郷土資料や貴重な資料の方を逆に特定の部屋の中に囲い込んで、そういう資料のみカフェに持ち込ませないという解決策を取っている所が多いだろうと思われる。
動線を重ねることの是非の判断は人によって分かれると思うが、貸し出し可能な資料の場合は、図書館の外で利用者の判断によって動線が重ねられ、場合によっては汚損することもあるので、図書館の中だけ駄目と言ってみても仕方ないような気もする。結局は利用者のマナーとモラルに委ねられるものなのだ。
私自身は、図書館の中にカフェの機能が内包されることを拒否しないし、逆に歓迎する立場に立つ。
ところで、上記の「カフェのある図書館マップ」にも掲載されているけど、私がよく利用する浦安市の中央図書館には「ひだまりカフェ」という名前のラウンジ(喫茶・休憩室)が施設の中央部に設置されており、もちろん、自由に館内の資料を持ち込むことが可能である(当然、一部の資料を除く)。
この「ひだまりカフェ」、障がい者等の就労支援を行っているNPO法人タオが市の委託を受けて運営しており、障がい者が健常者とともに働いている。
メニューはコーヒーなどの飲み物と軽食で、営利を目的としていないのでリーズナブルな価格なのが嬉しいし、自分で用意した弁当などを持ち込むこともできる。
障害のある息子を持つ父親としては、積極的に公共施設の中で障がい者の働く場を設けようとしてくれる市の姿勢と、それを受け入れる市民の理解はこの上なく嬉しい。
話が戻るが、先にこうした事例がある中で、今回の武雄市のケースが耳目を集めたのは、やはり「スターバックス」という記号の価値の大きさによるのだろう。
「TSUTAYA(CCC)」に続くビッグネームの登場は、樋渡市長らしさの象徴でもある。ご本人がスタバ出店を「CCC側に強烈にお願いしていた」とブログに書かれているし、初めからスタバありきだったことは明らかだ。
それでは、なぜ「スタバ」だったのか?。同様のチェーンなら「タリーズ」でも良かったはずなのに。「マックカフェ」という選択肢はどうだ?。マックのプレミアムローストは、安くて十分に美味いよ(笑)。
カフェという機能を図書館の内側でどのように実現するのか、どこまで深く考えられたのか、浦安市の実例を知るだけに、よその市のことながら大いに気になる。
あと、武雄市とCCCとスタバとの関係がいまひとつよくわかっていなので、どういう契約で武雄市立図書館にスタバが入っていくのかが理解できていないが、図書館という行政財産の貸し付けという形になるのであれば、その相手先の選定に当たっては、何らか公平な競争が行われるべきではないのかと考える。
スタバの雰囲気やコーヒーの味は私も嫌いではないが、かと言って「スタバいいね」とか「武雄市やるじゃん」とか言う気にはなれない一抹の怪しさを、今回の件では感じる次第である。