『沖縄戦と琉球泡盛』と「うりずん」

うりずん外観

沖縄県の那覇市に1泊2日で出張することになって、ほぼ10年ぶりの那覇の夜にどこで飲み食いすれば良いのか、沖縄の食情報にも通じているハンバーガブロガーのTakaさんに聞いたら、宿の近くで何店舗か紹介していただいた中に、「古酒と琉球料理 うりずん」という店がありました。

『沖縄戦と琉球泡盛』

『沖縄戦と琉球泡盛 百年古酒の誓い』書影どこかで聞き覚えのある店名だなと思って記憶を辿り、たぶんここにあったはずと紐解いたのが、『沖縄戦と琉球泡盛-百年古酒の誓い』(上野敏彦著、明石書店、2022.7)。
元共同通信記者で、宮崎支局長も務められた上野敏彦さんが、休暇を使って30年以上沖縄に通い、苛烈を極めた沖縄戦を乗り越えて復活した琉球泡盛について、そこに関わった人々からの聞き取りや、数多の文献から、書き起こしたルポルタージュです。

私が単身赴任中にテゲツー!のライターとして駄文を連ねていた時に、何かのイベントの会場で、2度目の宮崎支局長として勤務されていた上野さんと出会い、テゲツー!に書いた記事を褒めていただいたのがきっかけで、ときおりニシタチで杯を酌み交わすようになりました。
飲み屋のカウンターに二人並んで飲みながら、上野さんがそれまで書かれた本の話、記者として関わってきた様々な事件、人の話などを聞いたりしながら、記録をする、文章を書くということの基本を教わりました。
以来、勝手に、文筆におけるわが師と呼ばせていただいております。

その上野さんの『沖縄戦と琉球泡盛-百年古酒の誓い』の冒頭から、「うりずん」は登場するのです。
Takaさんのおすすめが無かったとしても、行くべき店であることは間違い無いので、沖縄に飛ぶ前に、19時からひとりで、と予約の電話を入れました。

「うりずん」訪問

栄町市場西口

那覇空港から、ゆいレールで宿泊するホテルに移動し、荷物をほどいて、徒歩で「うりずん」に向かいます。
歩くこと10分ほど、ゆいレール安里駅近くの栄町市場の一角に、「うりずん」はありました。

うりずん外観

元は料亭(連れ込み宿)だったという古い木造の2階建ての家屋で、店の前には亜熱帯の草木が生い茂り、2階には「泡盛古酒と琉球料理 うりずん」の看板がかかっています。

入口の扉を開けて入ると、すでに店内はほぼ満席状態。2階にもかなりの客が入っているようで、賑やかそうな声が階段から聞こえてきました。
予約していた旨を告げると、1席だけ空いていたカウンターに案内されました。

大きな甕が鎮座するカウンター内部

カウンターの奥には、大きな甕が置かれ、その前の土の床にも甕が2本置かれています。
この甕の中に、店オリジナルの8年古酒が仕込まれているようです。

カウンター後方の壁

カウンターの中の壁には、沖縄各地の泡盛の一升瓶が並び、反対側、カウンター後方の壁には、常連客が古酒をキープしているのであろう徳利がずらりと並んでいます。

開店は1972(昭和47)年8月とのことなので、もう50年以上、たくさんの人々がこのカウンターで泡盛を飲み交わしてきたのでしょう。歴史の重みを感じる、味わいのあるカウンター席です。

泡盛と琉球料理

つきだしと古酒のからから

忙しそうに動き回る店員さんの手が一瞬空いたのを見極めて、まずは「うりずん特製古酒(8年もの)」をカラカラでお願いしました。

壺屋焼のカラカラとグラス(陶器だからグラスというの少し変ですが)とともに、つきだしの皿が出てきました。
つきだしは、大根と昆布の煮物。何気ない料理のように見えますが、これがまた滋味深くて美味しい。

水の入ったピッチャーと氷の入ったペールは、別に用意されていて、好きなように割って飲めるようになっています。
8年古酒は30度あるそうですが、まずはストレートで口に含んで、鼻に抜けるその香り、まろやかな甘みを味わい、それから氷をグラスに入れてロックでいただきました。

ジーマミー豆腐

続いては、「ジーマミー豆腐」。
ジーマミー=地豆=落花生ということで、胡麻豆腐の落花生版。
沖縄らしい料理の一つで、少しずつ口に含んで溶かしながら、泡盛と一緒に喉を滑らすと、大地の恵みを味わっているような気になるんですよね。

ミーバイの刺身

次にいただいたのは、ミーバイの刺身。
ミーバーは、沖縄の言葉で魚のハタ類全般を表します。
いくつか種類がありますが、総じて淡泊で上品な白身で、脂のりが良く、噛むと旨味が広がります。
皮の下には脂が付いているので、左上のグラスの中には、湯引きした皮の味噌和えが入っていました。これまた、泡盛に合う。
シクヮーサーが添えられているので、味変に果汁を搾って酸味を加えます。
皿の中央にスターフルーツが添えられているのも沖縄らしいですね。

刺身を食べている途中でカラカラの泡盛が無くなったので、宮古島の泡盛「菊之露」をグラスで追加しました。
学生時代にスキューバダイビングをやっていて、宮古島に行った際に、オトーリでしこたま飲んだ思い出の泡盛です。
そう言えば、ミーバイにも、あちこちの沖縄の海の中で出会ったことがあります。

ドゥル天

悲しいかな、飲み始めるとあまり食べられなくなったので、最後の料理として頼んだのが、この店が発祥という「ドゥル天」。
沖縄で採れる田芋(ターンム)を茹でてつぶし、豚肉、かまぼこ、しいたけを混ぜこんで炒め煮した「ドゥルワカシー」を円盤状にまとめて油で揚げた、コロッケのようなもの。
素朴な甘さと旨味があって、なかなか美味しかったです。

できれば、もう少し沖縄料理と泡盛を満喫したかったところですが、30度の泡盛で良い塩梅に酔ってきたしお腹もふくれたので、ここで打ち止めにしまて、ふらふらと寄り道しながらホテルに戻りました。

上野さんがこの店に通っていた頃に話を聞いた、店主の土屋實幸さんは、既に鬼籍に入られてお目にかかることはできませんでしたが、その意志はしっかり引き継がれて、店の中で生き続けているように感じました。
機会があれば、また訪れて、違う料理、違う泡盛を味わってみたいものです。

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