『冥闇』

 今回ご紹介するのは、ギリアン・フリン著『冥闇』(小学館文庫)

 主人公は、アメリカ中西部・カンザスシティに住む31歳のリビー・デイ。7歳の時に母パティと二人の姉を惨殺され、幼い彼女の不確かな証言によって、兄のベンが犯人として逮捕され刑務所に収監されている。
 事件のトラウマもあって無気力で自嘲的で手癖の悪い生活を送り、事件後に寄せられた善意の寄付金を頼りに生きてきたリビーだったが、その金も底をつき、何とか金を稼がなければならなくなる。
 そんな時、有名事件の真相を語り合う「殺人クラブ」の会合に招かれ、謝礼をもらうために参加することになったリビーは、金のために24年前の事件を振り返ることになり、そこから事件の真相に近づくために、当時の関係者を探し始める。

 現在(2009年)のリビーと1985年のベンとパティ、それぞれの視点で語られる章が織り込まれながら、物語は事件のあったその日に向けて収斂して行く。
 そして明らかになる複雑な事件の真相と、真相を追い求めることによって前向きな人生を取り戻すリビー。

 本書は、リビーの喪失と再生の物語であると同時に、1980年代のアメリカ中西部の陰影に満ちた世相と若者達の風俗、貧困と人間を描き、単なる謎解きミステリーに終わらない重層な世界を構築している。☆☆☆☆1/2。

Translate »