今回の通勤電車内読書は、ステファニー・ピントフ著『邪悪』(ハヤカワ・ミステリ文庫)。
1905年11月、ニューヨーク郊外の小さな町ドブソンの一軒家で、若い女性の惨殺死体が発見された。殺されたのは、数日前から伯母の家に滞在していたコロンビア大学院生で数学を専攻しリーマン予想を研究していたサラ・ウィンゲート。
捜査に当たるのは、ニューヨーク市警刑事局から5ヶ月前にこの町の警察署に移ってきたばかりの30歳の刑事サイモン・ジール。
そのサイモンの前に、犯人に心当たりがあるという人物が現れる。コロンビア大学法学部の教授で、犯罪者の行動と心理を研究する犯罪学研究所を主宰するアリステア・シンクレアだ。
ジールはシンクレアの話を聞き、彼が研究の対象とし、今回の事件の手口と酷似した妄想を語っていたというマイケル・フロムリーという男を捜し始めるが、サラとフロムリーの周辺を探るうちに、事件は意外な展開を見せ始める。
1905年のニューヨーク市長選挙を巡る史実、指紋鑑定など科学捜査がまだ一般的でなかった当時の捜査手法や、ニューヨークの街の風俗、女性の社会進出を巡る心理などを背景に、犯罪に手を染める者達の心の闇に迫る傑作ミステリ。
賭博にのめり込んで身を滅ぼした父を持ち、事故で妻を失ったジール、ひとり息子を犯罪者に殺されたシンクレア、そのひとり息子の妻で今はシンクレアの助手を務めるイザベラ。
いずれも喪失の痛みをを知り、その痛みを克服するために何故?を問い続け生きる人々の物語でもある。☆☆☆1/2。
本作がデビュー作のステファニー・ピントフは、この作品で2010年度のアメリカ探偵作家クラブ賞新人賞を受賞している。
この刑事ジールと犯罪学者シンクレアのコンビの物語は、第二作『ピグマリオンの冷笑』が既に刊行済みなので、ジールとイザベラの仲に進展があったのか、確認するのが楽しみでもある。