今回の通勤電車内読書は、ボストン・テラン著「音もなく少女は」(文春文庫)。
『本の雑誌』の書評でもすこぶる評判が良く、浦安市立図書館で蔵書検索したら貸出中だったので予約して、ようやく順番が回ってきたという次第。
前作の「凶器の貴公子」は私にはいまいちだったが、本作は「神は銃弾」や、続く「死者を侮るなかれ」(いずれも文春文庫)に比肩するできを取り戻している。
主人公は、貧困家庭に生まれ、生まれつき聴覚に障害を持つ少女イブ。ヤクの売人でイブの母親クラリッサを虐待し、挙げ句の果てに殺してしまった父親ロメインを初めとして、ろくでもない男達に関わらざるを得なくなる彼女と、母親代わりとして彼女を教え導くドイツ生まれで孤高の女フランの交流と戦いと成長の物語。
登場する男達が皆ろくでもないということではないのだが、弱さや狡さが際立つ男のキャラが目立つ一方で、ハンディにもめげず、不運や悲嘆に屈することなく、男達とその男達が作る社会にに立ち向かう女達の凛々しさが、バックボーンとして本作をしっかりと立たせている。原作のタイトルが”WOMAN”であるのも頷ける作品である。
初期2作のような疾走感や荒々しさは陰を潜めているが、その代わりに静けさや情熱、気高さが心を打つ。解説の北上次郎が傑作と呼ぶのも得心できる一作である。☆☆☆☆☆。