今回の通勤電車内読書は、ボストン・テラン著「凶器の貴公子」(文春文庫)。
テランと言えば、CWA(イギリス推理作家協会)新人賞受賞作で2002年の「このミス」1位のデビュー作「神は銃弾」や、続く「死者を侮るなかれ」(いずれも文春文庫)が鮮烈な印象を残しているが、本作は暴力と復讐に溢れた疾走感のある前2作とは違って、本作は主人公が妙に内省的で真面目だし、派手な暴力シーンもほとんど無い。前2作のようなテランを期待して読むと、見事に期待を裏切られる。
一方で本作は、ミノタウロス伝説をモチーフにしているらしく、作品としての構造や小道具、登場人物達の吐く警句などは、その意味がわかればそれなりに楽しめる。神話的な解説は巻末に詳しいので、ギリシャ神話にさほど詳しくない私のような輩には、そこまで読んで改めて本文を読み直すのが良いのかもしれないとも思う。
そこそこ面白く読めるものの、ノワール好きの私としてはテランの良さが感じられずに少々残念。☆☆1/2。