『サイレント・ジョー』

『サイレント・ジョー』書影

 先週末、大阪への旅のお供だったのが、図書館から借りていったT・ジェファーソン・パーカー著「サイレント・ジョー」(ハヤカワ文庫HM)。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

 幼い時に父親から硫酸をかけられ、顔の半分に醜い傷を負った主人公のジョー。母親からも見捨てられた彼は、施設にいる時に慈愛に満ちた保安官補のウイル・トローナとその妻メアリー・アンに引き取られ、父親の薫陶を受けながら育ち、彼と同じ保安官補の職に就き、郡政委員となった養父ウイルの片腕としてその仕事を手伝っている。

 ジョーが顔に受けた傷は、他人を怖がらせ、心ない物に「怪物」とも呼ばせることから、彼は孤独を心の内に抱え、礼儀正しく自分を律している。それでいて、自分の身に起きたことが二度と起きないようにするため、身体を鍛え、たいていの武器に精通し、それまでの人生のほとんどを費やして身を守る術-思いつくかぎりのあらゆる流儀とテクニック-を学んでいる。タフガイのヒーロー像がそこにある。

 彼が養父ウイルから受けた教えのひとつは、「口は閉じ、眼は開けておけ。そこから何か得るものがあるかもしれない。」ということ。そのせいか彼は、直感記憶という、類い希な記憶力を備えている。

 ウィルとジョーが一人の女の子を助けようとした夜、何者かがウイルを襲い射殺したことから、ジョーのその能力を生かした捜査が始まる。
 その過程で明らかとなる大きな陰謀とウィルや彼を取り巻く人々の真実。また、それと同時に、ジョーの出生の秘密も明らかとなる。
 全編を通して貫かれる一人の青年の孤独と家族への感謝と愛、そして最後に正義が行われる。そういう意味でもアメリカ的な正しいミステリ。
 確かな筆力で細かい描写までしっかりと読ませる。傑作だと思う。☆☆☆☆☆。

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