『冷血の彼方』

 今回の通勤電車内読書は、マイケル・ジェネリン著「冷血の彼方」(創元推理文庫)
 東欧のスロヴァキアを中心に、ウクライナ、ロシア、フランスを舞台にした警察小説と言っていいのかな。奇妙な暗さを湛えた物語である。

 主人公は、スロヴァキア警察刑事警察隊に所属する女性警部のヤナ・マティノヴァ。
 彼女が、首都ブラティスラヴァのハイウェイで起きたメルセデスのヴァンの炎上事故の現場にかけつけると、男1人に女6人の死者の中に顔見知りの売春婦の姿があり、男はウクライナとアルバニアの2通のパスポートを所持していた。
 事件の背後には国際的な人身売買組織の存在が疑われ、ヤナはウクライナの首都キエフに捜査に赴くが、そこで伝説的な犯罪者コバの影に触れる。
 一方でヤナは、フランスのストラスブールで開催されるEU諸国の人身売買に関する会議にも出席するように要請され、ロシア人警官のレヴィティンとともにストラスブールでの会議に出席するが、そこで新たな殺人事件が発生し、更に舞台はニースへと移って行く。
 そして、ニースで明らかになる事件の全体像と新たな悲劇。

 この小説が他の警察小説と違って特異なのは、捜査の進展と平行して、共産主義政権下でのヤナとその夫で急進的な役者だったダニエル(ダノ)との過酷な生活が語られる所にある。
 共産主義的官僚主義と秘密警察に目を付けられたダノとの闘いは、ヤナの生活にも大きな影を落とすことになり、その影の暗さが、この小説全体を覆っている。

 警察組織の腐敗と闇の勢力との関わり、組織内部の抗争などは、エルロイの「LAコンフィデンシャル」などにも通じる部分があるが、ヤナの上司で庇護者でもある警視監のトロカンの温かさと皮肉の効いた科白が、かろうじて救いになっている。

 前半の導入から中盤の展開に比して、コバの登場から事件の一応の解決に至る終盤は、ちょっと重みを失っていると言えなくもないが、本作をスタートとしてヤナの物語は2011年時点で第4作まで続いているらしく、今後に期待というところだろうか。☆☆☆1/2。

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