『泥棒が1ダース』

『泥棒が1ダース』書影 今回の通勤電車内読書は、ドナルド・E・ウェストレイク著「現代短篇の名手たち3 泥棒が1ダース」(ハヤカワ・ミステリ文庫)。これも、『本の雑誌』2010.9月号の翻訳ミステリー特集に掲載の「初心者におすすめの30冊」中の1冊で、「とくにおすすめ!」の★がついている。

 著者のウェストレイクは、リチャード・スターク名義で悪党パーカーシリーズを書くなど、複数のペンネームで多様な作品(SFもあるらしい)を発表しているミステリの手練れで、本書は、彼が産み出した泥棒ジョン・ドートマンダーを主人公とした11編の作品と著者自身の手による序文「ドートマンダーとわたし」を含む短編集である。序文を読むと、一連の作品がどういう経緯や構想の下に産み出されたかがよくわかる。

 ドートマンダーは、犯罪プランナーで職業的窃盗の第一人者であり、いかに盗むかのアドバイスもするし、自分でも盗む。しかし、その計画が最後までうまく行くことはなく、常に何らかのトラブルがつきまとう。そこから、いかに知恵を絞って抜け出すかが、この短編集の骨子なのだが、どこかとぼけた味わいとユーモアが妙味になっている。盗みはあるけど、人は死なないし、血も流れない、清く正しいミステリ。短編集なので、それぞれの作品は読みやすいし、各編に共通して登場する人物もいるので、全体を通して楽しめる。これをきっかけにドートマンダーが主人公の長編を読んでみたくもなるではないか。★★★

 本書は、ハヤカワ・ミステリ文庫の「現代短編の名手たち」シリーズの3巻目にあたり、巻末には「短編ミステリガイド」も連載されている。シリーズ・コンプリートの仕掛けもばっちり。

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