『迷宮の淵から』

 今回の通勤電車内読書は、ヴァル・マクダミード著『迷宮の淵から』(集英社文庫)

 主人公は、カレン・ピーリー。スコットランド・ファイフの州都グレンロセスの警察署で未解決事件再捜査班の警部補。
 その警察署をひとりの女が訪ねてくる。難病で骨髄移植が必要な幼い息子を救うため、一縷の望みをかけて、22年前に炭坑町から姿を消した父親を見つけて欲しいという。

 再捜査班に回されたその依頼の捜査を開始したカレン警部補だったが、その途中でエディンバラに住む大富豪のブロデリック・マクナレン・グラントに呼び出され、やはり22年前に起きて迷宮入りしていた、ブロデリックの娘と孫の誘拐殺人事件の再捜査を依頼される。
 ジャーナリストのアナベル・リッチモンドが、イタリア・トスカーナの廃屋で、22年前の事件につながるポスターを発見していたのだ。

 カレン警部は、2つの事件を平行して捜査することになり、炭坑町のファイフで聞き込みを始めるが、その一方でブロデリックは、情報を持ち込んだアナベルを使って、消えた孫アダムの行方を追わせようとしていた。

 22年前の過去と2007年の現在、スコットランド・ファイフとイタリア・トスカーナ、登場人物達の証言の内容に合わせて、2つの時代と複数の場所が舞台となった章がシャッフルされて織り上げられる物語は、やがて全く関係のなさそうな二つの事件を、現代の悲劇へと収斂させて行く。

 600ページを超える長編でありながら、ページをめくる指を止めさせることにない見事なページターナーで、全く長さを感じさせない。☆☆☆☆☆。

 著者のヴァル・マクダミードのことは、本作で初めて知ったが、巻末の解説を読むと、1995年に『殺しの儀式』でCWAゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会最優秀長編賞)を受賞し、2010年には永年の功績を讃えられてダイヤモンド・ダガー賞をも受賞している英ミステリー界の重鎮らしい。
 恥ずかしながら、寡聞にして知らなかった。でも、過去の作品を遡って読む楽しみができたというものだ。

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