『森へ消えた男』

 今回の通勤電車内読書は、ポール・ドイロン著「森へ消えた男」(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 アメリカ・メイン州ノースウッズの森でガイドや密猟で生計を立ててきた粗野な父を持つマイク・バウディッチは、父と別れ再婚した母と暮らしていたが、長じてメイン州の猟区管理官(Game Warden)になった。
 それには、幼少の頃からの父の生き様と育ったメイン州の森の記憶が色濃く影響を及ぼしている。
 そんなマイクがある夜、疎遠にしていた父から切迫した様子の留守電を受け取る。そして翌日マイクは、父が殺人事件の容疑者として逃亡中であることを知らされる。
 果たして父に何があったのか?。父の無実を信じるマイクは、職を失う覚悟を心中に抱えながら、真相を探るために事件現場の周辺で動き始める。
 そんな若い猟区管理官を見守りながら、時には諫め、導こうとする上司やメンターとも言える引退した管理官。
 そして、クライマックスで明らかとなる意外な事件の真相と哀しい結末。

 北米の大自然とその中で生きる人びとの決して楽ではない暮らしを伝えながら、父と子の葛藤と家族愛、若き管理官の成長を描くミステリ。☆☆☆。

 山中朝晶による訳者あとがきを読むと、「猟区管理官」という言葉は、訳者の造語とのこと。密漁の監視、遭難者の捜索、野生動物の保護・捕獲、船舶の検査など多様な業務を行い、銃の携行が許可され、逮捕権限もある「Game Warden」の概念が日本にはないため、どう訳出するか苦労したようだ。

 訳者によれば、作者のポール・ドイロンは、このマイク・バウンディッチを主人公とする作品を全部で三作執筆する契約になっているということで、マイクの成長していく姿が描かれるであろう続編が楽しみだ。ちゃんと邦訳されるといいけど。

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