確かに台北には3度ほど行ったことがあるが、最後に行ったのは2年前なので、今回はそういう話ではなくて、フランシス・リー著「台北の夜」(ハヤカワ・ミステリ文庫)のお話。
この本も、浦安市立中央図書館の文庫棚933を漁って拾い出した、通勤電車内読書用。
本書、2009年のアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の処女長編賞を受賞しているのだが、どちらかと言うとミステリ色は薄い。
両親が台湾出身で、アメリカで生まれ育った主人公エマーソンとその弟リトルPの、台湾を舞台とした物語であり、バリバリのハードボイルドなミステリを期待して読むと肩すかしを食うことになるが、読み進むうちに次第に台湾やリトルPの暗黒部が描き出されて行く。
親しかった母親を亡くし、自分のアイデンティティを突き詰めるが故に、早くに家を出て台湾に渡った弟との絆を取り戻そうとするエマーソンに対し、台湾の暗黒社会に身を染め、そこから離れられなくなってしまっているリトルP。
台湾で「外国人(本書の原題がThe Foreigner)」として孤立するエマーソンが、エンジェルやアティカスといった、これまた外国人的な人々の助けを得て、幾多の苦難を乗り越え、リトルPの陥った深淵に触れ、彼との対決を決意するところで、余韻を残して幕が下りる。
この本のもうひとつの面白さは、そうしたメインのストーリーとは別に、日本統治時代も含めた台湾の歴史や政治事情、中国との間の複雑な関係と人々の心情であろう。
これまでの訪問では、台湾の親日的な側面にしか触れることがなかったけれども、本書を読むと、台湾の人々の抱える複雑な思いの一端が理解できる。台湾通の人々にはお勧めの一冊である。ただし、ミステリとしては☆☆☆。