『越境』

 今回ご紹介するのは、コーマック・マッカーシー著『越境』(ハヤカワepi文庫)

 コーマック・マッカーシーと言えば、以前読んだ『ブラッド・メリディアン』がその暴力性で印象深いが、本作の舞台も同様にアメリカ南西部からメキシコ北部にかけての地域である。

 本書は、1940年代アメリカの辺境の地で、少年ビリーの16歳からの4年間の過酷な日常と成長を描く青春小説であり、アメリカとメキシコの国境をまたぐ旅での様々な出会いを描くロードノベルでもある。

 しかしそれ以上に、ビリーが旅先で出会う人々が語る幻想的な物語の寓意性、哲学性、宗教性が際だち、神とは何か、人間とはどういう存在であるのかを問いかける骨太な小説である。

 ある意味哲学書のような小難しさもあるので、手軽にさくさくと読める作品ではないが、幾度となく読み返したくなる重さを持った、アメリカ現代文学を代表する作品と言えるかもしれない。☆☆☆☆1/2。

 著者のコーマック・マッカーシーについてビブリオグラフ的なことを書けば、1992年に発表され全米批評家協会賞と全米図書賞を受賞した『すべての美しい馬』、本作(1994)、『平原の町』(1998)の三編で“国境三部作”をなすらしい。前後作はいずれも未読なので、いずれ読んでみなければ。

 また、2005年発表の『血と暴力の国』は、2007年にコーエン兄弟によって『ノーカントリー』(原題: No Country for Old Men)として映画化され、同年の第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の計4冠を受賞と話題を呼んでいる。
 で、その『ノーカントリー』で助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムが、現在公開中の『007 スカイフォール』で悪役を演じているということなので、是非とも観に行かねばね。

Translate »