『凍りつく心臓』

 今回の通勤電車内読書は、ウィリアム・ケント・クルーガーによるコーク・オコナー・シリーズの記念すべき1作目で、著者の処女作でもある「凍りつく心臓」(講談社文庫)

 シリーズを読み始めて4作目で、ようやくコークの原点にたどり着いた。
 このシリーズ、5作目と6作目で連作になっている「闇の記憶」「希望の記憶」を除けば、それぞれの作品はきちんと独立していて、どの作品から読んでも特に違和感なく楽しむことができる。

 ミネソタのアイアン湖畔の小さな町オーロラの保安官だったコークは、対立するグループの間で片方を警備するという任務中に、父同様に慕っていたサム・ウィンター・ムーンを失い、サムを撃った犯人を射殺したショックから自分自身を見失ってしまい、保安官の職とともに愛すべき家族との生活も放棄せざるをえなくなってしまい。妻ジョーとは離婚の瀬戸際にある。
 それでも、モリーという魅力的な愛人を得て、多少なりとも救われてはいるのだが。

 そんな中、雪嵐の日にアニシナアベ族の新聞配達の少年が行方不明になり、コークは同じアニシナアベの血を引く者として少年の捜索をまかされ、彼が最後に訪れたであろう老判事の家で、頭をショットガンで吹き飛ばされた判事を発見する。
 コークの後を継いだ現在の保安官は、判事の死を自殺として処理しようとするが、死体の状況に不審を抱いたコークは、判事の死の真相と消えた少年の行方を追い始める。
 しかしその過程で、妻のジョーが判事の息子で大統領の座を目指している上院議員のサンディ・パラントと不倫関係にあることを知ってしまう。

 失意のコークがたどり着くのは、愛人モリーの死と意外な黒幕の姿、そして、結果的にコークを助けることになる妻のジョー。
 男の喪失と再生は、ハードボイルドにはつきものとも言えるが、ここでも妻と愛人という二重の喪失を味わいながら結果的に妻を取り戻し、再生していくコークの姿が描かれる。
 それと同時に、オーロラを取り巻く自然や社会構造、人間関係を見事に描き出しており、シリーズ初編として、見事なできばえと言わざるを得ない。

 なお本作は、1999年のアンソニー賞とバリー賞のそれぞれにおける最優秀処女長編賞(Best First Mystery Novel)を受賞している。それだけ優れた長編ということである。☆☆☆☆☆。

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