今回の通勤電車内読書も、ウィリアム・K. クルーガーの作品だが、いつものコーク・オコナー・シリーズから離れて、今のところ著者唯一の単独作品、「月下の狙撃者」(文春文庫)だ。
ちなみに、コーク・オコナー・シリーズは講談社文庫で出されていて、本作のみが文春文庫。2005年7月第1刷なので、残念ながらとっくに品切れみたいだけど。
たくさんの本の中で埋もれていた物語をこうして読めるのも、図書館があればこそだ。
さて、本作の主人公は、シークレット・サービスの特別捜査官ボー・トーセンだが、もう一方で、彼と対決する”ナイトメア”と呼ばれる暗殺者も裏の主人公と言えるだろう。
似たような不遇な幼少時代を過ごした二人が、長じて置かれた環境はまさに表と裏、光と影のよう。
彼らがかたや狙い、かたや守ろうとするのは、ファーストレディと彼女の父親で、その知力と体力を尽くした攻防が物語の主軸になっているが、単にそれだけでは終わらないのが著者クルーガーの凄いところで、大統領の椅子を巡る関係者達の群像劇が展開され、次第に権力に固執する男の陰謀が明らかにされて行く。
クルーガーという作家、人を描くのが上手いのだなという印象を、この作品では強く受ける。
そう、単に登場人物達の個性を描き出すだけではなく、人と人との関係を描くのが上手いからこそ、ミステリとしてだけではなく、重層な群像劇が成り立っているのだ。☆☆☆☆1/2。