『ベルファストの12人の亡霊』

 今回の通勤電車内読書は、スチュアート・ネヴィル著「ベルファストの12人の亡霊」(RHブックス・プラス)

 主人公のゲリー・フィーガンは、元北アイルランド共和派(リパブリカン)のテロ実行役で、周囲からは英雄として畏敬されているが、今は過去のテロ行為で殺した12人の亡霊につきまとわれ、酒に逃げ場を求める日々を送っている。

 彼が政治犯として12年の刑期を務めている間に、北アイルランド情勢は和平合意に至り、落ち着きを取り戻しているが、その合意は派閥間の危うい緊張の上に成り立っていた。

 フィーガンがかつての仲間でテロの指令役だった男に会うと、亡霊のうちの一人がその命を欲しがるそぶりを見せ、亡霊に消えて欲しい一心でフィーガンがその男を射殺すると、その亡霊も消えてしまう。

 そうしてフィーガンは、亡霊達の求めるままにかつての仲間や指令役を次々に手にかけることになるのだが、その連続殺人は、フィーガンの意図しないままに各勢力の微妙なバランスを崩し、和平合意そのものにも影響を与えるようになってしまう。

 和平合意を維持したい政府関係者達は、一人の男をフィーガン阻止のために送り出し、フィーガンに好意を寄せる女性マリーとその娘エレンも巻き込んで、追いつ追われつの手に汗握る展開が繰り広げられる。

 これもまた、ハードボイルドの鉄則である一人の男の喪失と再生の物語だが、そこに亡霊が絡むことで、ちょっと異色なハードボイルドに仕上がっている。ただ、亡霊達の暗鬱さが、フィーガンの心象風景と北アイルランドの歴史や風土を反映している訳で、著者の試みは大成功と言えるだろう。☆☆☆☆1/2。

 著者のスチュアート・ネヴィルは、北アイルランド出身で年齢不詳。本作が最初の長編デビューで、本作の続編も刊行済みらしい。邦訳が楽しみだが、でるのかな?。

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