『ぼく、牧水!』

『ぼく、牧水!』書影

今回の通勤電車内読書は、伊藤一彦・堺雅人著「ぼく、牧水! 歌人に学ぶ「まろび」の美学」(角川oneテーマ21)

 郷土・宮崎が生んだ大歌人・若山牧水について、今をときめく演技派の俳優・堺雅人と彼の高校の恩師であり、牧水の研究家であり、自身も歌人である伊藤一彦が語る対談というから、宮崎人としては読まずにいられまい。

 堺雅人と伊藤先生の出会いとその後の関係が実にいい、というか羨ましい。先日読んだ「船に乗れ!」の津島サトルと金窪先生の関係のように、哲学を通して生きるとは何かを教え、学び、今では時折酒を酌み交わしながら文学や芝居や哲学を語り合う関係になっている。実は、牧水も、伊藤先生も、堺君も、宮崎という故郷と早稲田大学という線(縁)で繋がっているのだ。こんな師が持てたら幸せだろうし、こんな弟子(生徒)が持てるのもまた幸せだろう。
 私にも図書館の師と慕う高校時代の先生がいて、その人もまた私を哲学と出会わせてくれた授業を受け持っていたなあ。その後、仕事でご一緒することがあったが、あまり語り合うこともないままに鬼籍に入られてしまったのが実に残念である。

 本書では、二人の三夜に渡る対談を通して、牧水の生涯をたどりつつ牧水が詠んだ代表的な歌を紹介するとともに、現代の堺君の生き様ともオーバーラップさせて行く。その間を、うまく伊藤先生が橋渡しする見事な授業になっている。
 これを詠むと、牧水の歌の本質である「あくがれ」とか「まろび」というものがよく理解でき、改めて牧水の歌集を繙いてみようかという気になる。一読して決して損はない、素晴らしい入門書である。☆☆☆☆☆。

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