通勤電車内読書最新刊は、シャロン・クラム著『名声のレシピ』 (新潮文庫)。
主人公のトム・ウエブスターは、ニューヨーク在住の金融誌コラムニストで、妻が自分の無二の親友のもとへ家出してしまって別居中のさえない中年男。
そんな彼が、有名スキャンダル雑誌の編集長から、一月以内にタブロイド紙の紙面を飾る有名人になり、その体験を手記にしてセレブ誕生のからくりを暴露すれば10万ドルの報酬という企画を持ちかけられる。もちろん、有名になるための手段は問わないと。
いろいろと考えた挙げ句にトムが採った方法は、現代のセックスシンボルとして有名な女優とデートして、一躍時の寵児になること。お相手の女優の方も、自分のキャリアアップのために、セックスシンボルから知的な演技派への変身を図ろうとしており、両者の利害が一致して、巧妙に仕組まれたデートが始まることになる。
そうとは知らぬメディアやトムの周囲が、どのように反応し、どのような展開となるかがこの小説の白眉。売らんがためにあることないことでっちあげて記事にしていくスキャンダル誌や、有名でありさえすれば中身は問わない様々なメディア、現在のマスコミというか、人間社会の一面をうまく皮肉っている。
コメディタッチの軽妙な語り口で、ぐいぐいと読ませ、面白い。☆☆☆☆。