『レッドスカイ』

 今回の通勤電車内読書は、ジョセフ・リー著「レッドスカイ」(幻冬舎文庫)

 東京都内にありながら、米軍基地としてその上空域も含めて民間機の進入を許さない横田基地。その横田基地の返還問題と、日本、アメリカ両国の民間航空会社の経営問題をモチーフにした、経済エンターテインメント小説かな。作中で人は死ぬけど、少なくともミステリではないな。

 経営不振に陥っているアメリカのユニバーサル航空と、これまた経営が思わしくない日本の日本グローバル航空(JGA)が業務提携を進めようとする中、横田基地ではアメリカ兵による少女レイプ事件が発生し、基地返還の声が無視できないほどに高まっていた。
 両者の提携の成否の鍵を握るのが、横田基地への民間航空機の乗り入れなのだが、交渉の裏では、ナショナリストの市長、利権を狙う銀行家、一度はJGAを追われ復権を目指す証券会社のビジネスマンが、それぞれの利害を一致させるべく暗躍していた。
 その陰謀を関知し、友人であるユニバーサル航空の部長を助けようと動く主人公の経営コンサルタント・川上健太郎だったが…。

 日米両国の実在する航空会社をモデルに、日本の航空政策やビジネスに言及する内容や、横田基地の位置づけに対する問題提起などはなかなか面白い。特に、日本航空の経営破綻が明らかになった後で読むと、著者の先見の明がわかろうというものだ。

 しかしながら、登場人物の造形が薄くステレオタイプで、源氏鶏太など一時代前のサラリーマン小説を思い起こさせるのが残念。

 著者あとがきによると、ジョセフ・リーは香港生まれの東京育ちで、70年代の高校時代は東京のインターナショナルスクールに通い、毎週末のように米軍基地にあるアメリカンスクールを訪れていたという。日系大手企業に対する経営戦略、企業不動産買収、ITシステム導入などのコンサルティングビジネスに従事し、1991年に米国に帰化したとのこと。
 本作には、そうした著者の経歴と経験、それにちょっとした願望が反映されているのだろう。☆☆1/2。

Translate »