『ミッドナイト・ララバイ』

 今回の通勤電車内読書は、サラ・パレツキー著「ミッドナイト・ララバイ」(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 久しぶりのV・I・ウォショースキー・シリーズ。ノン・シリーズの「ブラッディ・カンザス」を間に派挟んで、4年ぶりとか。

 さて、シリーズ前作「ウィンディ・ストリート」で傷ついた身体を癒すために出かけたイタリアへの旅行から帰り着いたばかりのヴィクは、入ろうとした事務所の前で倒れたホームレスのエルトンを病院へ運び、その時出会った病院付きの牧師カレンを通じて、40年前の大吹雪の夜に行方不明になった黒人青年ラモント・ガズデンを捜す仕事を引き受ける羽目になる。

 時を同じくして、ヴィクの前に従妹のペトラが現れる。ヴィクの亡き父トニーの年の離れた弟ピーターの娘で、父の知人の息子ブライアン・クルーマスの選挙運動を手伝うのにシカゴまでやって来たという。

 ラモント失踪の手がかりを捜して彼の友人・知人を訪ね回るうち、40年前の殺人事件が浮かび上がる。デモ行進の最中に殺された女子学生の死の真相にブライアンが絡んでいるようなのだが、関係者の口は重く、なかなかブライアンの所在にたどり着けない。しかも、その時の犯人を逮捕した警官の一人が、ヴィクの父トニーだったこともわかる。
 一方、従妹のペトラはヴィクの幼少時代からの生い立ちに興味を示し、ヴィクの身辺を探るような行動を取り始める。

 そして、ヴィクが40年前の事件の手がかりを知る人物を訪ねている最中に、その場所に火炎瓶が投げ込まれ、大事な証人を失うとともに、ヴィク自身も傷ついてしまう。
 それでもめげないヴィクは、病院を抜け出して調査を続行するのだが、ペトラが行方不明になり、ヴィクの調査にも様々な妨害が行われる。
 本書ではヴィクの年齢も50を過ぎており、そのタフネスぶりには驚くばかりなのだが。

 そんなヴィクを救ったのが、調査の依頼人であるクローディアから手渡された1冊の聖書だった。その中に、40年前の事件の真相を写した写真のネガが隠されていたことから、40年前と今が一気に繋がり、解決へと導かれて行く。

 本書のモチーフになっているのが、1966年にキング牧師の提唱により行われたマルケット・パークでのデモ行進である。
 パレツキー自身は、この時代のシカゴで学生ボランティアとして過ごしており、当日のデモにこそ参加していないものの、当時の公民権運動のうねりを身近に経験している。
 このあたりのことは、パレツキーの自伝的エッセイ「沈黙の時代に書くということ」に詳しい。優れたエッセイなので、是非一読されることをお薦めする。

 本書では、恋人モレルとの別れや、今は亡き母ガブリエラ、父トニーの思い出が描かれ、ヴィクの孤独を際だたせる一方、ヴィクを慕う従妹のペトラや隣人で音楽家のジェイクという新たな人物の登場により、今後の展開も期待させる。

 差別と闘う作家サラ・パレツキーの真骨頂とも言える本作、お薦めである。☆☆☆☆1/2。

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