今回の通勤電車内読書は、テス・ジェリッツェン著「聖なる罪びと」(文春文庫)。
4月以降、職場が変わって通勤時間帯が変わって座れなくなったのに加え、スマホの導入で電車内で本を開く機会が減ったので、通勤電車内読書のペースが落ちているが、許されたし。
さて本書は、1984年12月にユニオン・ガーバイド社がインド・ボパールで起こした化学工場事故をモチーフに、ボストンにある古い修道院で起きた修道女殺傷事件の謎を、ボストン市警殺人課の若い女性刑事ジェイソン・リゾーリとマサチューセッツ州検死官のモーラ・アイルズが解決に導く物語である。
著者のテス・ジェリッツェンの作品を読むのは初めてなのだが、読み進めているうちに、どうやら本作はシリーズ物でいくつか前作があるのではないかと感じていたのだが、安原和見氏による巻末の「訳者あとがき」を読むと、案の定「外科医」、「白い首の誘惑」に続くシリーズ三作目らしい。
ただ、三作とも主人公が異なっていて、モーラ・アイルズは本作が初登場とのこと。
前二作を読んでいないので、登場人物達の人間関係が多少掴みづらい部分はあるが、男社会の中で懸命に生きている、ちょっと不器用なジェイソンと、沈着冷静な観察者であるモーラという主役級の二人の女性の愛や、信仰と「罪」の有り様を横糸に織り込みながら、二人が修道女の殺傷事件と、同時期に起こった手足を切断され顔の皮を剥がれた女性の殺人事件のつながりを追い、次第に真相が明らかになっていくストーリー展開は見事である。
ストーリーの最後で犯人が明かされるのだが、それは彼女たちの謎解きによるものではないため、ミステリの要素として少し弱さもあるが、サスペンス的にはなかなか良くできていて、映画化されるとこうなるのかなという画が頭に浮かぶ。
背景となった事故を起こした会社への批判、愛と信仰、女性の生き方など、アメリカ社会の一端を知る意味でも深い余韻の残る作品である。☆☆☆☆。