『荒ぶる血』

『荒ぶる血』書影

 今回の通勤電車内読書は、ジェイムズ・カルロス・ブレイク著「荒ぶる血」(文春文庫)。もちろん、浦安市立図書館の蔵書。

 ジェイムズ・カルロス・ブレイク、本書が初見だけど、凄いね。私のツボにぴったりとはまっている。巻末の解説で関口苑生も「静かな興奮とでもいうか、心地よい高揚感がしばらくしてから湧き上がってきてきて、それがえんえんと持続するのである」と書いているが、登場人物達のしっかりとした造形、それぞれの生き方の重み、その重なりが主人公のジミー・ヤングブラッドの物語に紡がれていく。こういうノワールこそ、私が求めるものだ。

 主人公のジミーは、アメリカ南部の犯罪組織のボス・ローズの側近で、取り立て(もちろんそこには殺しも含まれるが)を稼業としていが、彼のルーツは、メキシコ革命の英雄パンチョ・ビジャの側近で、連邦刑務所の囚人300人を一人で殺したと言われる冷徹酷薄なロドルフォ・フィエロ(またの名を肉食獣(エル・カルニセロ))と、仲間から「幽霊」と呼ばれていた娼婦である。

 そんな彼が今の稼業に落ち着くまでが、メキシコ革命の時代からの彼と家族の歴史と現在が交互に語られることによって描かれ、そこから終末へ向けた新たな暴力の場面へと続いていく。本書は、犯罪小説であり、「フロンティア」と呼ばれた偉大な西部の物語であり、様々な愛の物語でもある。それがたとえ暴力の場面であっても、描かれるシーンのいかに美しいことか。本当にジェイムズ・カルロス・ブレイク、ただ者ではない。☆☆☆☆☆。

 私が知らないだけかしれないが、こんな作品が埋もれていたとは、まだまだアメリカのクライム・ノベルは奥が深い。同じ著者の前作「無頼の掟」も浦安市立図書館にあったはず。読むのが楽しみ。
 また、こういう意外な出会いがあるのが図書館の棚を漁る楽しみでもある。iPadの登場で電子出版の可能性が取りざたされる昨今であるが、図書館の可能性はまだまだ尽きない。

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