『掠奪の群れ』

『略奪の群れ』書影

 今回紹介の通勤電車内読書本は、ジェイムズ・カルロス・ブレイク著「掠奪の群れ」(文春文庫)

 本書は、1933年から34年にかけてアメリカ中西部で銀行強盗を繰り返して時代の寵児となったジョン・ディリンジャーと彼の一味である「ディリンジャー強盗団」をモチーフにしている。
 ジョン・ディリンジャーと言えば、ジョニー・デップ主演で2009年に公開された映画「Public Enemies(パブリック・エネミーズ)」が記憶に新しいが、本書の主人公はディリンジャーではなく、ハリー・ピアポント(映画ではデビッド・ウェナムが演じていた)である。
 巻末の解説によると、主要な登場人物は全員、実在の人物であり、各種のエピソードも歴史に忠実に拾われているという。それでいてノンフィクションではなく、作者ブレイクがしっかりと人物造形し、言動や内面描写をあたかも見てきたかのようにリアルに描いている。

 本書では、主人公ハリー・ピアポントによる回想の形を取り、登場人物の会話も「」で括られることなく、地の文の中に溶け込む形で語られていく。その抑制の効いた文体が、1929年の世界大恐慌や禁酒法の影響で雰囲気が暗く、ギャングが勢力を拡大していった時代の雰囲気と、そこに登場し世間に受け入れられた無法者(アウトロー)達のクールさを見事に描き出している。同時代に活躍し、同じく「俺たちに明日はない」で映画化されたボニーとクライドも本書にちらりと登場したりするのだ。

 トリックスターとして表舞台に立ったジョン・ディリンジャーの傍らで、実は強盗団のリーダーとしてジョンとともに時代を時代を駆け抜けたハリー、そして彼らを取り巻く女達や男達。彼らの短かくも太い生き様を見事に描ききる作者ジェイムズ・カルロス・ブレイクの筆力に脱帽。☆☆☆☆☆。

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