『ダークサイド』

 今回の通勤電車内読書は、ベリンダ・バウアー著『ダークサイド』(小学館文庫)

 デビュー作である前著『ブラックランズ』がいきなり2010年ゴールド・タガー賞(英国推理作家協会・最優秀長編賞)受賞という快挙を成し遂げたベリンダ・バウアーが舞台として選んだのは、今回も前作と同じロンドンから遙か西にあるエクスムーアの寒村シップコット。

 そのシップコット村で、脊椎損傷により首から下が麻痺して寝たきりになっていた老女マーガレット・プリディが何者かによって殺害される。
 村のたった一人の巡査ジョーナス・ホリーは、州都トーントンから来た殺人課の警部ジョン・マーヴェルの指揮下に組み入れられ、マーヴェルから疎まれながらも彼なりに事件を解決しようとするが、彼のよく知る村人達が次々に殺される連続殺人事件に発展してしまう。
 殺害されたのは、いずれも病気や障害などで家族に介護の負担をかけていたような人々。そして、ジョーナスにも多発性硬化症という進行性の難病を患い、日常生活がだんだんうまく行かなくなってきている妻のルーシーがいる。
 殺人者の影がルーシーに忍び寄ろうとする時、霧が晴れるように一連の事件の真相が明らかになるのだが…。

 お互いを支え合いながら生きるジョーナスとルーシーを始め、田舎の寒村で暮らす人々や様々な問題を抱えながら捜査に当たる刑事達の心の襞を描く筆力はさすがだと思う。
 前作で主人公だったスティーヴン・ラムも端役で登場し、トラウマを抱えながらも健気に生きていることを教えてくれる。彼の家族も皆なんとか元気なようだ。
 しかし、本作の場合は、犯人像と殺人に至る動機がどうにも納得できない。
 以下ネタばれになるけども、乖離性同一障害(多重人格)では、交代人格は主人格を守るために必要があって発生するのであり、それが積極的に他者に関与して殺人を犯すという構成は、障害への理解や影響力のある作家の態度として、いかがなものか。
 暗く救いのないエンディングもいただけない。ひょっとして、まだジョーナスの物語に続編があるのかとも思ってしまう。
 途中まで良かっただけに、最後の謎解きの部分以降が非常に残念。☆☆1/2。

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