『ブラックランズ』

 今回の通勤電車内読書は、ベリンダ・バウアー著『ブラックランズ』(小学館文庫)

 主人公は、12歳の少年スティーヴン・ラム。父親を亡くし、母親と祖母、弟の4人でイングランド南西部のエクスムーアにあるシップスコット村で暮らしている。
 祖母のグロリア・ピーターズは、19年前に息子のビリー(スティーヴンにとっては叔父に当たる)を自動連続殺人犯のアーノルド・エイヴリーに殺されてどこかに埋められて行方不明になって以来心を閉ざし、母親のレティも鬱屈した感情を抱えたまま、スティーヴンへの対応にもその陰を引きずっている。

 スティーヴンは、叔父ビリーの遺体を発見して事件に終止符を打てば、そんな祖母や母の状況を変えることができるのではないかと考え、スコップ片手に、エクスムーアの荒野を掘り変える毎日を送っている。

 どちらかというと目立たない、いじめられっ子のスティーヴンだが、唯一先生に誉められたことのある手紙を書く能力だけが自分の取り柄だと信じており、ある日、獄中のエイヴリーにビリーの所在を訪ねるため、その能力を駆使して手紙を書く。
 その手紙が、退屈で絶望的な日々を送っていたエイヴリーを刺激し、二人だけに通じる暗号めいた手紙のやり取りが繰り返されることになるのだが、それがエイヴリーの欲望を限りなく膨らませることとなり、やがて対決の日が訪れる。

 サスペンスの体裁を取っているものの、ひとりの少年の冒険譚であり成長譚として、よく練られた物語であり、ロバート・R・マキャモンの『少年時代』にも通じるところがある。
 決して幸福とは言えない環境の中で、家族を理解し、愛し、冷静に自分の置かれた状況を見つめ、捨て鉢にならず懸命に努力する主人公スティーヴンのけなげな姿がいじらい。☆☆☆☆。

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