『スリーピング・ドール』

 今回の通勤電車内読書は、ジェフリー・ディーヴァー著『スリーピング・ドール〈上〉〈下〉』(文春文庫)。

 リンカーン・ライム・シリーズの『ウォッチメイカー』に出てきた「人間嘘発見器」こと捜査官キャサリン・ダンスを主人公にしたスピンオフ作品である。上巻の方にアメリア・サックスとリンカーン・ライムもちらりと登場する。

 カリフォルニア州捜査局(CBI)の捜査官でキネシクス(動作学)の専門家であるダンスが対峙するのは、カルト集団の指導者ダニエル・ペル。強盗殺人罪で重警備の刑務所に収監されていたが、別の事件の尋問のためにモンテレー郡保安官事務所に移されていた間に何者かの手引きで脱獄し、逃走を図る。
 ペルの脱獄直前に尋問に当たっていたダンスは、そのまま捜査の指揮を執ることになり、その能力を駆使して関係者から話を聞き、言葉の裏に隠された真実を引き出しつつペルの行方を追う。

 精緻に練られたプロット、二転三転するストーリーで、最後まで一気に読ませる筆力は、さすがにディーヴァーである。
 証拠を科学的に分析するリンカー・ライムの捜査方法とは違い、会話の中で相手の何気ない動作や言葉遣いを分析するキャサリン・ダンスの捜査方法は、人間の心理を浮かび上がらせ、犯人や事件の関係者だけでなく同僚や家族を含め周囲の人間達との相互作用でストーリーが動いていく点に面白さがある。
 カルト集団がテーマということで、ペルが他人の心理に付け込み、意のままに操ろうとする手練手管もまた興味深い。☆☆☆☆1/2。

 ダンスの物語は本作で好評を博したらしく、シリーズ化されて、第二作『ロードサイド・クロス』も刊行されている。
 まだ文庫化はされていないみたいだが、読むのが楽しみな作品がまた出てきて嬉しい。

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