『ラグナ・ヒート』

 今回の通勤電車内読書は、前回の「嵐を走る者」に引き続き、T・ジェファーソン・パーカー著「ラグナ・ヒート」(扶桑社ミステリー)。既にミステリーの大家となったT・J・パーカの1985年のデビュー作である。

 舞台は、著者パーカーのホームグラウンドであるカリフォルニア州ラグナビーチ。
 ラグナビーチ警察署に着任したばかりの、ラグナ出身の刑事トム・シェパードが、石で頭を割られ火をつけられて焼かれた男の殺人現場に到着する場面で物語が幕を開ける。
 トムは、幼い頃に母親を殺された過去を持ち、妻とは離婚、以前に勤めていたロサンゼルスの警察署で16歳の少年を射殺したトラウマからから立ち直ろうとしている。つまり、喪失の痛みを抱える男な訳だね。
 殺人現場に残された手がかりを頼りに関係者に会ううちに、トムは次第に自分自身の過去、30年前の母が殺され、ラグナにあるリゾートの共同経営者が溺死した年へと導かれていく。
 果たして30年前に何があったのか?。そして、元警官で今は牧師をしているトムの父ウェイドは、30年前に何をしたのか?。

 現代と過去の両方の事件を解決へと導く過程で、トムは新たな恋人を得、刑事としての自信を取り戻して行く。これもまた、喪失から再生へと向かう物語である。

 処女作ながら、登場人物一人一人に対する目が優しく、紋切り型の人物造形に陥っていないところが見事。過去と現在が複雑に入り組んだプロットもよく練られており、文句なく☆☆☆☆☆。ミステリファンもそうでない人も、読むべき一冊だろう。

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