『キューバ・コネクション』

『キューバ・コネクション』書影

 通勤電車内読書は、アルナルド・コレア著「キューバ・コネクション」(文春文庫) style=。キューバ人の著者が、初めて英語で書いたスパイ小説?である。

 主人公のカルロスは、キューバ情報部員としての20年を主に海外での工作に生き抜いてきたが、アフリカで活動している間に妻に死なれ、1994年に故国に戻ってきた時には3人の子ども達との間が疎遠になっていた。子ども達は、病気の母が自殺したのは、たまに帰ってきてプレゼントをくれるサンタクロースのような父親のせいでもあると考えているらしい。
 一方、父親が不在の間にアメリカによる経済制裁の強化を受けたキューバ経済は崩壊し、子ども達は祖国を捨ててアメリカに亡命しようと、粗末な筏に乗って外海に漕ぎ出して行った。しかし、そこには嵐が待ち受けており、それに気付いたカルロスは子ども達を助けようと情報部の同僚や上司の助けを借りて奮闘を始める。

 嵐の中で遭難しかかっていた子ども達を見つけ、カルロスもまたアメリカに潜入することになるが、今度はキューバ情報部の幹部がアメリカに潜伏したという情報を得たCIAから追われることとなる。
 追うCIAにも情報を漏らしたキューバ情報部にもそれぞれ事情があり、様々な人間達の思惑が絡んで事態が複雑に動いて行くが、カルロスは持ち前のスパイとしての能力を活かしてCIAの追及をかわして逃げ延びていく。

 スパイ小説の体裁を取ってはいるが、本書は父親の贖罪と家族の再生の物語であり、愛と友情の物語であり、アメリカとキューバの近代史の物語でもある。特に、あまり知ることのないキューバとアメリカの関係をキューバ人である著者が書いているところも読みどころのひとつである。☆☆☆。

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