『イアン・フレミング極秘文書』

 今回の通勤電車内読書は、ミッチ・シルヴァー著「イアン・フレミング極秘文書」(小学館文庫)

 イアン・フレミングと言えば、言わずとしれた007ジェームズ・ボンドの生みの親であり、007ファンの私としては、何を隠そう創元推理文庫の作品は殆ど持っていたりするし、封切られた映画も初期の作品を除いてほとんど劇場で観ている。
 そのフレミング、国会議員の息子として生まれ、陸軍士官学校卒業後、銀行や問屋を経て、ロイター通信の支局長(外信部長)としてモスクワに赴任。1939年からMI6(SIS)に勤務、第二次世界大戦中は実際に安全保障調整局(BSC)のスパイとして活動するという経歴を持っている(参考:wikipedia)。
 その彼が、第二次世界大戦前のイギリスとドイツの状況について書き残した未発表文書があり、それが2005年になってエール大学で美術史を教えるエイミーという女性に託されることになるのだが、文書の公開を望まない勢力に追われて、イギリスからアメリカへの逃走劇の末に…、というのが大まかなあらすじ。

 モチーフとなる時代背景が、先月観た「英国王のスピーチ」と同じで、エドワード八世(後に退位してウインザー公)やその夫人となるウォリス・シンプソン、ウィンストン・チャーチルなど、映画で観た面々が、映画とは違う一面を見せてくれるので、読んだ時期としてはタイミング良かったのかもしれない(本書の初版は2008年7月発行)。

 それにしても、フレミングの経歴や確認されている史実をうまく取り込み、フレミングの語る回想に関係する証拠書類をビジュアルで見せたりして、虚実ないまぜの物語が、本当にあったことのように思えてくるあたりは、着想の勝利とともに、著者の筆力、構成力の賜物だろう。
 著者のミッチ・シルヴァーは、本作がデビュー作ということだが、いきなりハードルの高い作品を仕上げてしまったものだ。一発屋に終わらないことを期待。
 ただ、主人公エイミーの人物造形や後半のチェイス部分の完成度など物足りない部分もあって、ミステリとしての総評は☆☆

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