『カサンドラの紳士養成講座』

 次に読む本のために、いつものように浦安市立図書館中央館の文庫933棚を渉猟していたと思いねぇ。

 浦安市立図書館の場合(たいていの図書館はそうだと思うけど)、文庫棚はNDCで分類された後、更に著者名(姓)の五十音順で並べられている。英米文学とて邦訳された後なので、アルファベット順ではなくて五十音順なのだ。当たり前と言えば当たり前。

 それで、中央館では五十音の後ろの方が図書館の入口に近いので、たいていは「ワ」行の方から順に棚を眺めていくことになる。
 五十音の後ろから前へ、未読で、手頃な厚さで、基本的にミステリで、なんとなく面白そうな匂いを漂わせている本を探すのだが、その日は左端の「タ」行あたりまで来ても、これぞと思う本に出会えなくて、仕方ないから背中側の棚に振り返ったら頭の「ア」行から見ていくことにして、「バリー・アイスラーの新作とかうあっぱり出てないよねぇ」なんて見てた訳だ。

 そうすると、「カ」行のところで、見覚えのある作家で見覚えのないタイトルの本があるではないか。それが、エリック・ガルシア著「カサンドラの紳士養成講座」(ヴィレッジブックス)

 エリック・ガルシアと言えば、人間社会で恐竜が探偵稼業を営むあの「さらば、愛しき鉤爪」とか、ジュード・ロウ主演で映画化された「レポメン」(映画の邦題は「レポゼッション・メン」ね)の作者で、SF的なミステリと言うかミステリ的なSF、しかもハードボイルドの匂いを漂わせながらもパロディっぽくギャグ感満載という、なかなか面白い作品をものしている。

 そのガルシアが「カサンドラの紳士養成講座」なんて、ラブロマンスっぽいタイトルで挑んできている訳で、これは期待できそうではないか。タイトルだけなら絶対手に取らないと思うけど、ガルシアならこのタイトルをどう料理してくれるのか楽しみで、棚から抜いてカウンターに向かった次第。

 読み始めてみると、ミステリでもSFでもないけど、その期待に違わずなかなか楽しませてくれた。
 主人公のカサンドラ(キャシー)・スーザン・フレンチは、ロサンゼルスでハリウッド映画の大手スタジオに勤める29歳の弁護士という設定。本書は、彼女のモノローグという形をとっている。
 ある程度の収入とステイタスを持つ彼女の周りには、ハイソでバブリーな世界が広がっている。無いのは、将来への展望とステディなお相手くらい。理想のお相手を捜して、パーティーに顔を出したり、スタジオを訪れた超有名俳優の目にとまろうと必死になったり。
 そんなカサンドラだが、人に知られてはいけない秘密があって、自宅の地下室に3人の男子を監禁し、完璧な紳士に仕立てる”フィニッシング・スクール”を作っているのだ。
 しかし、超有名俳優ジェイソンに誘われるままに一夜を過ごした後、たまたまジェイソンの自分たちを陥れようとする企みに気づき、ジェイソンを地下室に軟禁してしまったから大変。調和の取れていた”フィニッシング・スクール”の運営が次第に危うくなってくる。
 そこに絡んでくるのが、カサンドラの親友でテレビ会社の重役のクレア・キンボールと、その友人でバービー人形のような肢体を持つヨーガスタジオ・オーナーのレシク・ハート。それぞれに一癖も二癖もある彼女たちが絡んでくることで、事態がますますややこしくなってくるのだが…。

 ハリウッド、バーの経営、ヨーガ、犬、裁判などなど、ロサンゼルスのセレブ社会にまつわる最新のいろんな要素をちりばめた、ちょっとブラックなパロディ。甘ったるいだけのラブ・ロマンスにならず、下品にもなりすぎず、うまくまとめてしまうのは、やはりエリック・ガルシアだから。☆☆☆1/2。

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