『ロリ・マドンナ戦争』

『ロリ・マドンナ戦争』書影

先日の宮崎出張の際、帰りの機中で読んだのが、スー・グラフトン著「ロリ・マドンナ戦争」(扶桑社ミステリー)。これも浦安市立図書館からの借り物。

 なんとも奇妙な小説である。
 簡単に言うと、アメリカ・テネシー州の片田舎で隣接して暮らす2家族が、ささいなきっかけから反目を募らせ、土地を巡って争いを始め、最後には家族全員を巻き込んで、血で血を洗う全面戦争に発展し、多くの人間が死んで終わる。

 一方の家族フェザー家に、抗争の発端となる「ロリ・マドンナ」と間違えられて誘拐・監禁された若い女性・ルーニーが、いつの間にかフェザー家の一員に肩寄せていく点は、ストックホルム症候群かと思わせるし(本作が書かれた時にはまだそんな言葉は無かったが)、本来は仲の良いはずの両家の兄弟達が、家族(特に父親)の呪縛に縛られて殺し合いに踏み込んで行く様は、近親憎悪の果てなのかとも思わせる。理性ではなかなか理解できない部分である。

 巻末の解説を読むと、著者のスー・グラフトンは、シナリオ・ライターとして幾多のTVドラマの脚本をてがけており、日本で公開された作品もあるようだ。本作も著者自身の脚本で映画化され、1973年に同名で日本公開されているらしい。知らなかった。
 本作が書かれたのが1969年、ベトナム戦争の泥沼の中で、二つの世界の対立という構図、反戦、ポップカルチャーの登場といった時代の雰囲気が、反映されているのかもしれない。総評☆☆☆1/2。

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