『フェイスフル・スパイ』

『フェイスフル・スパイ』書影

今回の通勤電車内読書は、アレックス・ベレンスン著「フェイスフル・スパイ」(小学館文庫)

 主人公のジョン・ウェルズは、CIAの工作員としてアルカイダに唯一潜入を果たし、その一員として行動しているが、9.11同時多発テロを未然に防げなかった無念を心の内に秘めて、より核心の情報に接するため、更に深く潜入しようとしている。そのために彼はCIAとの接触を極力断ち、ジハードの戦士として戦っているが、そのことが彼を孤立させ、CIAからも見放されかかっている。彼を信じるのは、連絡担当の女性局員エクスリーだけ。
 一方、アルカイダは、アメリカ本土で新たなるテロを計画し、ウェルズをその実行員としてアメリカに送り込む。
 ウェルズは、自分が関わることになるテロがいつ、どこで、どのように行われるのかを探るため、アメリカ国内で孤独に耐えながら潜伏生活を送る。そんな中、ウェルズも全く知らなかった爆弾テロがロサンゼルスで決行される。そして、ついにウェルズの下にアルカイダの幹部オマー・ハドリからの連絡が。
 ウェルズは、巧妙に立ち回るハドリから情報を得てテロを止められるのか、孤高でありながら国家への忠誠を忘れない男の闘いを描く力作である。2007年度MWA最優秀処女長編賞受賞作。

 巻末の解説と合わせ、アメリカが直面しているアフガニスタンやイラクでの対テロ戦争の状況、イスラム社会の概要の一端が理解でき、スパイ・スリラーとしても十二分に楽しめる好著だと思う。☆☆☆☆1/2。

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