『ゲートハウス』

 今回の通勤電車内読書は、ネルソン・デミル著『ゲートハウス(上)・(下)』(講談社文庫)。上巻706ページ、下巻700ページ(巻末解説含む)の大作だ。

 ネルソン・デミルと言えば、『ワイルドファイア』を浦安の図書館で借りて読んだ覚えがあるのだが、読書記録を捜すけどどこにも書いてない。今度図書館に行った時に確認してみなきゃ。
 それだけではなくて、映画にもなった『将軍の娘』の作者でもあるんだが、残念ながらこちらは未読。デミルって、大作が多くて文庫本はたいてい上下巻に分かれているので、通勤電車内読書用の本としてはどうにも敬遠しがちなのよね。

 それはそれとして、この『ゲートハウス』だ。
 主人公は、弁護士のジョン・サッター、舞台は、NY郊外の超が付く高級住宅街「ゴールド・コースト」。
 大富豪スタンホープ家の娘スーザンとゴールド・コーストで暮らしていたジョンは、10年前にスーザンが隣家のマフィアのドン・フランクと姦通した挙げ句にフランクを射殺する事件を起こしたため、スーザンと離婚してロンドンで暮らしていた。
 しかし、スタンホープ家の元雇用人で、同家のゲートハウスの終身居住権を持つエセル・アラードの死期が迫っているという知らせを受け、彼女の遺産管理を任されている弁護士として、ゲートハウスに戻ってきた。
 ゲートハウスと同じ敷地内にあるゲストハウスには、元妻のスーザンが暮らし、すぐ近くにはフランクの息子・アンソニーも居を構えるなど、10年前の悲劇を知るキャスト達が、再び顔を揃えることになる。
 ジョンとスーザンは、10年前から変わらぬ愛を確認して縒りを戻すことにするのだが、それを喜ばぬスーザンの両親・ウィリアムとシャーロットとの対決、父親の復讐に駆られるアンソニーとの駆け引きという2本の軸が交差して、二人の周辺を不穏な空気が覆う。そして、最後に迎える大団円。

 上下で1,400ページというボリュームを感じさずに一気に読ませる原動力は、何と言っても、特に労働することなく暮らしていける富裕層や裏社会コーザ・ノストラの住人達など、一般的な感覚とは違う常識の中で暮らす人びとに対峙する、常識人ジョン・サッターのシニカルな思考と軽妙で皮肉の効いた語り口にある。
 もちろん、自由奔放なスーザンを初め、WASPの上流社会とその周辺で生きる登場人物達の造形や、前半の緩やかな流れから終盤で一気に加速するプロットも素晴らしい。流石にアメリカの国民的作家となったデミルの筆に揺るぎなしという感じ。☆☆☆☆1/2。

 なお、本書で語られる10年前の事件は、デミルが1990年に発表した『The Gold Coast』(1992年に邦訳、94年に文庫化)で詳述されているとのこと。これも図書館で探して読むと、改めて面白さを再確認できるのかもしれない。

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