『応酬』

 先日の宮崎出張に持って行って、待ち時間と機内で読了したのは、ポール・リンゼイ著「応酬」(講談社文庫)

 ギャングとFBIの物語なんだが、ミステリでもスリラーでもハードボイルドでもなく、どっちかと言うと人物描写に力点が置かれたコメディ・テイストな物語。
 疾走感とか暗黒感とかを期待してしまうと見事に裏切られるが、ちょっとほのぼのとした展開の中で、ギャングはギャングの、FBIはFBIの組織の事情といったものや、お互いの騙しあいなどが軽妙に描かれていて、それなりに楽しめる。☆☆☆。

 著者のポール・リンゼイは、元FBI捜査官ということで内部の事情には詳しいから、変に神格化されたり英雄視されたりする捜査官像やギャング像をあえて打ち壊し、通常の様々な組織と同様に、同じ人間のやることとして、中には妙に上昇志向の者がいたり、事なかれ主義だったり官僚主義的だったり、ワーカホリックだったり、病的だったりする者もいるんだということを呈示しようとしているようでもある。

 リンゼイには、現役の捜査官時代に書いたデビュー作『目撃』で登場させたマイク・デブリン特別捜査官を主人公とするシリーズもあるとのことで、そっちの方が正統っぽいみたい。いつかそっちも読んでみないと作家としての力量は量れないが、わざわざ捜すほどでもないかな。偶然に書架の前で出会えれば、それが縁というものだ。

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