今回の通勤電車内読書は、マイクル・コリータ著「夜を希う」(創元推理文庫)。
主人公フランク・テンプル三世が、元FBI捜査官で自殺した父フランク・テンプル二世の呪縛から逃れようとしつつも、逃れられないままに犯罪に巻き込まれ、父から仕込まれた護身術で窮地を脱し、長年自らを苦しめていた呪縛からも解放されるハードボイルドな物語。
背負っているものの重さからか、若いのにどこか冷めているフランクの周囲で次第に不穏になる空気。地の文にゴシック体で埋め込まれたモノローグが、独特の雰囲気を演出している。
著者のマイクル・コリータは、1982年9月生まれで、2004年の”Tonight I Said Goodbye”(『さよならを告げた夜』(早川書房))がデビュー作という若い作家である。本作の書かれた2008年にはまだ26歳で、主人公も若いが作者も若い。
アメリカ本国では評価も高く、コンスタントに著作を重ねているが、日本ではまださほど評価されていないようで、邦訳は本作が2作目らしい。
若い作家ではあるけれども、プロットはしっかりしており、主人公の喪失と再生というハードボイルドの構造はきっちりと抑えられているし、登場人物の造型もきちんとできている。
逆に、荒っぽさや猥雑さみたいなものがスパイスに欲しかったりもするが、それは今後の作者の成長が楽しみと言うことだろうか。
著者の6作目である”So Cold the River”(2010)が創元推理文庫から刊行予定とのことなので、楽しみに待ちたい。☆☆☆1/2。