今回の通勤電車内読書は、馳星周著「9・11倶楽部」(文春文庫)。
著者の馳星周については、本名の坂東齢人名義で「本の雑誌」に書評を書いていた頃から知っており、「不夜城」(1996年)での鮮やかな小説家デビューは記憶に新しい。ノワール書かせたら今や国内でも第一人者と言って良いだろう。
全ての作品を読んでいる訳ではないが、裏社会との関わりの中で何かに憑かれたように破壊や暴力に駆り立てられ堕ちていく男と女を主人公とする印象が強い。
本書も、新宿で働く救急救命士・織田が、新宿浄化作戦のために帰国せざるを得なかった親達に置き去りにされた、不法滞在の中国人の子ども達と出会い、彼らを助けようと単身あがき続ける中で、新宿の裏社会を牛耳る勢力と出会い、犯罪に手を染めて堕ちていく姿を描いている。
堕ちていくことについて、織田には織田なりの理由があるのだが、冷静に見ると、何をそこまでと思うし、助け方の方向性が間違っているのではないかという疑問も湧く。
しかし、そう言ってしまうとノワールとしては成立しないので、そこは深く突っ込まずに物語を楽しむのが正解というもの。
馳星周の作品は、「不夜城」がそうであるように新宿を舞台とするものが多いが、学生時代に新宿ゴールデン街のバー「深夜プラス1」(書評家の内藤陳が経営)でアルバイトをしていた経験が大きく影響していたのであろう。
彼が働いていた時代の混沌とした新宿(特に歌舞伎町界隈)と、今の新宿は大きく変容しているが、その変容(とそれによる様々な影響)を招いた現都政への批判も、本書が書かれた理由のひとつなのかもしれない。
だからこそ、主人公達が突き動かされる破壊行為に対する著者の目が優しい。
私もこの3月までの4年間、新宿で働いていたので、本書に描かれる新宿の街や主人公達が通る道も頭に思い描くことができて、そういう意味でも楽しめた。☆☆☆☆。