『コールド・ロード』

『コールド・ロード』書影

今回の通勤電車内読書は、T・ジェファーソン・パーカー著「コールド・ロード」(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 先月読んだ「ラグナ・ヒート」に続き、1ヶ月ぶりのT・J・パーカー。
 文庫本で約600ページもある長編なんだけど、パーカーの筆力冴え渡って、長さなど気にならないくらい読ませる。電車の中で読んでると、ついつい引き込まれて降りるべき駅に気づかずに乗り過ごしそうになるくらい。

 主人公は、サンディエゴ市警殺人課部長刑事のトム・マクマイケル。最近の離婚の痛手を引きずる彼が担当することになったのが、地元の名士でかつて市長も務めたことのあるピート・ブラガの撲殺事件。
 実はピートは、トムの祖父フランクリン・マクマイケルを射殺した過去があり、それを恨むトムの父ガブリエルが、ピートの息子ヴィクターを襲って脳に障害の残る怪我を負わせたと噂されている因縁の人物。
 更にトムはかつて、ピートの孫娘パトリシアと交際していたが、両家の確執の犠牲となってその仲を裂かれ、今はお互いに結婚して家庭を持つことになった過去を持つ。

 「ラグナ・ヒート」しかり、その前に読んだ「嵐を走る者」しかり、T・J・パーカーの主人公達は、何らか喪失の痛みを抱えていることが多い。
 ミステリに共通してよく見られるひとつのパターンではあるが、本作ではそこに、世代を超えた二つの家族の確執や父と子の物語が加えられて、重層的になっているところが特徴と言えようか。

 トムは、殺人の第一発見者でピートの付き添い看護士だったサリー・レインウォーターに惹かれ、容疑者の彼女と付き合うようになるが、サリーは状況証拠から別件で逮捕されてしまう。
 一方、サンディエゴ市警の内部では、かつてトムの同僚だった風紀課刑事のジミー・シグペンが、マリファナと30万ドルの不法所持で逮捕され、彼がピートから車を運ぶ仕事を請け負っていたことが明らかになっていた。

 ピートの残した莫大な遺産と、彼が手がけていたビジネスを追ううちに、メキシコとアメリカの間で警察を巻き込んで行われていた密輸事件が浮かび上がり、それに関与していた黒幕とピート殺害の真犯人が明らかにされる。

 緻密で複雑なプロット、登場人物の造形と心理描写、長編を飽きさせずに読ませる筆力で、パーカーの実力を知るのに最適な一作である。☆☆☆☆1/2

Translate »