今回の通勤電車内読書は、ヘイリー・リンド著「贋作と共に去りぬ」(創元推理文庫)。
主人公のアニー・キンケイドは、伝説的な天才贋作師ジョルジュ・ルフルールを祖父に持ち、幼い頃から祖父の薫陶を受けて、美術品の鑑定と贋作の腕は超一流。
18歳の時には祖父とともに贋作作りの罪で投獄された経験も持っているが、それを機に贋作稼業からは足を洗い、画家兼疑似塗装師(フォーフィニッシャー)としてサンフランシスコで小さいながらスタジオ<嘘とまこと&mtを経営している。
そんなアニーが、ブロック美術館に勤めるキューレーターの元彼から呼び出され、カラヴァッジョの『東方の三博士』を鑑定したところ、案の定贋作で、しかもそれは今はフランスに住む祖父の手によるもののようだ。
そのまま美術館を後にしたアニーだが、直後に美術館の警備員が殺され、元彼は行方不明になってしまう。
カラヴァッジョの真作の行方が気になるアニーは、つてを頼りにあちこちに探りを入れるのだが、彼女の前にはハンサムな探偵が現れ、新たな殺人現場にも出くわすなど、次第に贋作を巡るどたばたの深みにはまって行く。そして、最後に明らかになる意外な犯人像。
ミステリとしての面白さもさることながら、美術史と贋作についての蘊蓄、個性溢れる登場人物達や美術界を中心とするハイソな社会とサンフランシスコの風俗など、楽しみ所も満載。
著者のヘイリー・リンドは、実はジュリー・グッドソン=ローズとキャロライン・J・ローズという二人姉妹の合作で、姉のジュリーが主人公アニーと同じフォーフィニッシング・アーティスト、妹のキャロラインが大学でアメリカ女性史の教鞭を執る歴史家とのこと。どうりで、美術史に詳しくアート製作の現場にリアリティがある訳だ。
ちょっとドジだけどキュートなヒロインと周りを固める多彩な登場人物達に、テンポの良い展開で、贋作と美術史の知識も楽しめる快作ミステリ。☆☆☆☆1/2。