宮崎に戻って電車に乗らなくなったせいで、確実に読書量が減っている。通勤時間が短くなって、外回りの営業に出なくても住むようになったのが、果たして良いのか悪いのか。
そのため、このブログの更新頻度も著しく低下してしまっている。ブログに書く内容を変えないといけないかな。コンセプトからは少々離れてしまうが、料理日記の方が良いのかも。
それはさておき、今回ご紹介するのは、サラ・パレツキー著『ナイト・ストーム』〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕。
前作『ウィンター・ビート』から約1年ぶりにV・I・ウォショースキーに再開できた、同シリーズ15作目である。
今回も事件の発端は、ヴィクの従妹ペトラからの1本の電話。夏の嵐の夜中に夜間外出禁止令を破って出かけた、ペトラが読書クラブで指導している少女グループのメンバーを探して欲しいというものだった。
閉鎖された墓地の一角で、ヴァンパイアと出会うための儀式を行っていた少女達を発見し保護したヴィクだったが、その同じ場所で、同業者の男ヴフニクの他殺死体を発見したことで、いつものようにヴィクの冒険劇が幕を開ける。
少女グループの中に、上院議員候補の娘と、その候補の支援者である大富豪の孫娘が含まれていたことから、ヴィクは上院議員選挙の候補者同士の対立軸に巻き込まれていく。
平行してヴィクは、大学時代からの友人で州立の精神病院に入院していたレイドンから秘密めいた電話を貰い、指定されたチャペルに会いに行くのだが、レイドンは何者かにバルコニーから投げ落とされ、意識不明の重体となってしまう。
ヴフニクの死の真相を追いつつ、レイドンが襲われた背景を調べるヴィクは、やがて生涯最大の危機を迎えることになる。
本作の重要な柱の一つは、権力とメディアとの関係。ケーブルテレビなどのメディアが、権力者の意のままに操られる可能性のある現状とその問題点を、本作は指摘している。
そして、もう一つの重要な柱が姉弟(兄妹)関係。様々な姉弟(兄妹)の関係が作中に登場し、その関係性を読み解くことが事件解決の手がかりともなっていく。
本作でも、ヴィクの友人である常連の登場人物達がしっかりと脇を固め、600ページを超える物語を一気に読ませる著者の筆力は相変わらずの冴えを見せる。
「われわれはみな無意識のうちに、発達障害の人間は何をするかわからないと思いこんでいるんだな。人はみな、偏見に凝り固まっている」
という作中の台詞のひとつに代表されるように、著者の弱者に対する温かい視線は一貫して変わらない。
エピローグは少しほろ苦いが、それが今のアメリカの現実であることを、著者は美化せずに描いているに違いない。
なお、原題の”BREAKDOWN”は、「故障」「没落」「挫折」「衰弱」「分析」「明細」など様々な意味を持つが、読後に振り返ってみると、邦題の「ナイト・ストーム」よりも全体の意味をよく表している気がする。