『本と人をつなぐ図書館員』

 5月末に浦安の家族宅に行った際に、飛行機の中で読了したのが、山内薫著 『本と人をつなぐ図書館員 -障害のある人、赤ちゃんから高齢者まで』 (読書工房)

 図書館の利用に障害のある人々への資料提供サービスを中心に、著者が行ってきた実践が綴られているのだが、正直言って「ここまでやるのか!」という驚きが最初にあった。
 なぜ驚くかと言うと、そのサービスが半端ではないからだ。

 第1章の冒頭に例示として出てくる「ひろみさん」は、筑波に住んでいる重度な肢体不自由のある女性なのだが、著者の山内さんは、1969年に墨田区立あずま図書館で図書館員としてのキャリアをスタートさせ、障害者サービスを柱としつつも、児童サービスなどあらゆる墨田区の図書館サービスの推進を現場で支えて来られた方である。
 墨田区の著者が、自分の務める図書館のサービスエリアの外、筑波に住む彼女が利用できそうな録音図書テープを送り、旅行のついでに会いに行き、その後も手紙のやり取りを続けながら、彼女が聞きたい内容の録音図書テープを探し、送り届けるのだ。

 また、その次に出てくる「大樹くん」は、生まれた時から視力に障害がある二歳児。
 彼と著者が出会ったのは、障害児をもつ親の会の集まりの場で、最初は図書館にある『さわる絵本』や『布の絵本』の利用を勧めるのだが、彼が保育園に入るようになると、保育園の保育士さん向けに展示の勉強会を開いたり、持ち物に展示のシールを貼るなどの環境作りを手伝う。
 そして、小学校に上がる段階になると、彼に点字を教えるためのプロジェクトチームを結成し、図書館をベースに点字教室を始めるのだ。

 この冒頭の2例だけでぶっ飛ぶ!。ここに書かれたサービスは、私の知る図書館のサービスの限界を遙かに超えている。
 行政のエリアも、部署云々といった管轄も飛び越えて、真っ直ぐに利用者を見ている。
 そんなできるとは思わなかったし、やっていいとも思わなかった。いや、考えることすらしなかったと言って良いだろう。
 でも、実際にやってのけた図書館員がいて、その図書館のサービスを受けて育った利用者がいるのだ。

 「おわりに」で著者は言う。
 「図書館利用に障害のある人たちとの出会いは、その都度『図書館とは何をするところか』『図書館に何ができるのか』ということを考えさせられる契機となってきた」と。
 「多くの利用者の方にさまざまなことを学ばせていただき、育てていただいた」と。

 司書資格を持ちながらも現場経験の殆ど無い私は、「障害者サービス」とか「アウトリーチ」とか、言葉は知っていても、その実践については何も知らないでいたことを、本書は教えてくれた。
 はっきり言って甘かったです。反省します。

 まだまだ図書館にできることはあり、そのためには、何よりも「人」(利用者)を見てそれに合ったサービスを考える集団としての「職員」が必要であることもまた本書は教えてくれた。
 それは、図書館での仕事に限らず、あらゆる職場で応用できそうである。

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