『暗闇の岬』

 今回の通勤電車内読書は、前回の「裏切りの峡谷」に続いてメグ・ガーディナーで、「暗闇の岬」(集英社文庫)。エヴァン・ディレイニー・シリーズの第3弾。

 今回は、恋人ジェシーの頼りなくも可愛い弟PJを軸にストーリーが展開する。
 PJの勤め先から小切手を盗んだ疑いをかけられたエヴァンは、その疑いを解く暇もなく取り立て屋から身に覚えのない金を返すように脅される。
 更には、ある夜PJとともにいたと思われる女性の死体がエヴァン名義のクレジットカードを所持していたことから殺されたと間違われ、挙げ句にはその犯人として疑われる始末。
 自分のクレジットカードを勝手に使ったのは果たして誰なのか、PJの周囲を探るうちに、PJが荷担するとんでもない悪巧みが明らかになって、怒濤のエンディングへとなだれ込んで行く。

 事件の展開と平行して、文武両道に秀でて何をやらせても優秀だった兄ジェシーと落ちこぼれ気味でそんな兄にコンプレックスを持つ弟PJ、そしてジェシーの障害をうまく受け入れられない二人の母親パッツィと父親キースという家族の微妙な関係を絡ませ、更には第一作「チャイナ・レイク」で登場したエヴァンの兄ブライアンとその息子ルーク、ブライアンの僚友マークまで登場して、前作で危うくなりかけたジェシーとエヴァンの関係の心のひだを描き出して行く。
 単なる犯罪小説ではなく、弱者への視線を忘れずに、縦横無尽に主人公のエヴァンを走らせるあたりが、著者メグ・ガーディナーの上手いところ。シリーズ3作目にして、その筆はますます冴え渡っている。☆☆☆☆☆。

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